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畳一筋、次代へ繋ぐ

畳製作1級技能士  岩手中央高等職業訓練校校長  
角掛 全功さん(74)

道具箱ひとつ抱え修練を重ねる

 盛岡市中央通にある創業90余年の「角掛畳店」で、大きな畳を一針一針丁寧に手縫いで修復しているのは、2019年度の卓越した技能者として「現代の名工」に選ばれた角掛全功さん。角掛畳店の2代目として日本畳の伝統技法を受け継ぎ、現在は岩手中央高等職業訓練校畳科の訓練指導員、同行校長として後進職人の育成にあたっています。

 上に3人の姉がいて男兄弟がいない環境で育った角掛さんは店を必然的に継ぐことになり、小学校の頃から家業を手伝い始め、中学卒業後は昼間は家業の手伝い、夜は定時制高校に通い授業が終わる夜9時半頃からは学校の相撲部の稽古場に行き、相撲の稽古をするといった忙しい生活を送っていました。細めの体つきは、昔いた力士の明武谷(みょうぶだに)に例えられていたそうで「よく〝明武谷〟と冷やかされたものです」と笑う角掛さん。

 高校卒業後は、「このままではまだダメだ。今よりもっと上を目指さなければ」と自ら活を入れ、横浜~東京~秋田の畳店へと口伝を頼りに、道具箱ひとつ持ってさらなる修業を積みに渡り歩いたことも。「どうしたらいい仕事ができるか試行錯誤しながら親方や先輩方から教わり勉強を重ねました。関東方面は工法も違い技術も進んでいましたからね。どうしても行ってみたくて」と角掛さん。先代の体調不良に伴い25歳で帰郷し家業を継ぐと、それまで習得した技を活かし、さらに腕を磨きあげていきました。

生涯学習を重ねチャレンジ

 畳の素材はここ10年ほどで大きく様変わりし、以前は「藁」や「い草」が主でしたが、今は和紙や樹脂製品などさまざま。工法も機械化が進むなか、角掛さんは「〝歳をとったからできません〟では通用しません。時代の流れについていくためにも日々勉強は必要ですし、いかによく仕上がるか研究を重ねています。さらに向上を目指さないとダメだと思う」と日々勉強と努力を惜しみません。

 補修してピタッと元通りに直して畳を納められた時、お客様に「旅館に行ったような畳のよいにおいがする」と言われる時が、「職人としてのやりがいを感じる瞬間」と目を輝かせて話す角掛さん。近年は、円形や六角などオリジナル畳にもチャレンジしているそうで、手間暇かけ試行錯誤しながら自分なりの畳を生み出す楽しみを見出している様子。

「畳を納めた時のお客さんが喜ぶ顔が一番やりがいを感じる」と角掛さん。右手には、自分の手に合うよう自作した「手当て」をはめ、一針一針丁寧に心をこめて手縫いで縫い上げるのもこだわりのひとつです

 昔は市内近郊で50件ほどあった畳店も年々減少し、現存しているのはその半数以下。「畳の需要はまだまだあるのですが、職人の高齢化で担い手が少なくなってきたのが深刻な問題」と話しながらも、1993年から指導してきた中央高等職業訓練校から多くの技能者を誕生させられたことについては誇らしげな表情を浮かべます。どんな生徒にもとことん付き合い、畳一筋でやってきた熱心さが実り、これまで輩出してきた合格者は1・2級合わせて70名以上にものぼっているとのことです。

 現在は3代目となる長男・誠也さんと店を切り盛り。朝5時起床でウオーキングや体操をし、1日1万歩をめざすのが日課となっているそう。「きのこ採りや山菜採りにも行くし、歩くことは苦にならない」と角掛さん。現代の名工に選ばれた先頭には90歳にして現役で働く方がいることを目の当たりにし、「私も新しい作品にチャレンジしながら死ぬまで勉強を続けたい。体が動く限りは生涯現役、シニアの皆さんもまだまだがんばって」とエールを送ります。


畳製作1級技能士  岩手中央高等職業訓練校校長
角掛 全功さん(74)



1945年生まれ。盛岡市出身。桜木小学校・下ノ橋中学校・杜陵高校卒。
創業90余年の「角掛畳店」の2代目。2019年、厚生労働省の卓越技能者(現代の名工)として表彰。畳製作1級技能士、ものづくりマイスター認定。岩手中央高等職業訓練校畳科職業訓練指導員、岩手中央高等職業訓練校校長、岩手中央職業訓練協会会長、岩手県畳技能士会副会長のほか職業訓練や能力開発に数多く携わりながら、若手職人の育成に力を注いでいる

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