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【岩手女子高校創立100周年】女子教育への思い、未来につなぐ

学校法人 岩手女子奨学会

岩手女子高等学校 理事長 澤野 桂子 さん

主婦から講師に導かれて教育の道へ

 大正10(1921)年に「盛岡実科高等女学校」として創立し、今年100周年を迎える岩手女子高校。その運営母体である「学校法人 岩手女子奨学会」理事長・澤野桂子さんは、半世紀以上にわたり、同校の教育に携わってきました。

 昭和41(1966)年に非常勤講師として着任。その後正規教員に登用され、平成5(1993)年には第7代校長に就任。現在は理事長として学校運営に関わる一方、日本伝統文化と栄養学(看護科)の授業を担当するなど、今も現役の先生として活躍している澤野さんですが「先生になるとは思っていなかった」と笑います。
 日本女子大学の食物学科で学び、卒業後は岩手医科大学附属病院の栄養士として働き始めた澤野さん。「食事療法に特化した部門で、新卒の私にとって勉強になることばかり。得難い経験もたくさんさせてもらいました」と振り返りますが、結婚のため半年で退職。その後は夫の転勤に伴い、弘前で数年間主婦業に専念していました。

 転機が訪れたのは、昭和41(1966)年のこと。家族と共に盛岡に戻ってきた澤野さんを待っていたかのように、岩手女子高校と、生活学園短期大学(現・盛岡大学短期大学部)から「講師をしてほしい」という依頼が舞い込んだのです。
「岩手女子高校では家庭科の食物の授業を、生活学園は調理科学の講義を受け持ってほしいということでした。教員と栄養士の資格を持っているとはいえ、働いた経験は半年だけ。ブランクもあり悩んだのですが、引き受けることにしました」と澤野さん。
「教えるためにはまず、自分が勉強しなければいけない。食物学の分野も日々進化しますから、母校の大学の講座を受けに東京に通ったりしましたね。大変でしたが学ぶことが多く、充実していたなと思います」と当時を懐かしみます。

100年という節目に建学の思いを重ねて

 岩手女子高校の講師に着任してから55年。校長を12年務め、系列校である「岩手女子看護短期大学(現在は岩手医科大学に移管)の創設や、中国・北京師範大学附属中学との姉妹校提携にも携わるなど、同校における女子教育の実践・発展に尽力してきた澤野さん。「校長に就任する際、前校長から贈られた『20年、30年後に活躍する女性を育てなさい』という言葉を、今も大切にしています。目の前のことに囚われず、『そのとき』が来たらいつでも真価を発揮できる基礎力を、地道に努力して身につけてほしい」と、教育者としての思いを語ります。

 岩手女子高校の前身である盛岡実科高等女学校は、岩手医科大学の創設者でもある三田俊次郎と、初代校長を務めた妻の三田てるが創設。実は、澤野さんの祖父母にあたります。
「女子の教育機会が乏しかった時代に『誠の心をもつ人間の育成』を掲げ、女子教育に力を注いだ創設者の思いは、今も大切に受け継がれています」と澤野さん。理事長として100周年を迎える澤野さんに今の気持ちを訊ねると「多くの卒業生が社会で貢献しているのを創設者が見たら、きっと感慨深いと感じてくださるでしょうし、いい学校になっていると思います」と言って微笑みました。

敷地の外からも見える「岩手女子高等学校」の文字。北京の姉妹校の先生に書いてもらったもの

100年を支える

「気高く、優しく、凜々しく」

100年という節目に建学の思いを重ねて

歴史を語る澤野理事長

「気高く、優しく、凜々しく」。これは、初代校長・三田てるが定めた、岩手女子高校の校訓です。
 女子高等教育機関が岩手にはまだなく「女子は小学校まで」だった時代。てるは鉄道もまだ通っていない岩手から単身上京して高等女学校に進み、東京女子高等師範学校(現・御茶の水女子大学)を卒業。帰郷して岩手師範学校(岩手大学)の女子部の創立に関わり教師としても教壇に立つなど、「女子教育」の実践に並々ならぬ情熱を注いだ人でした。

 その後、岩手医科大学の創設者でもある三田俊次郎と結婚。2人は岩手の女子教育の遅れを憂い、岩手女子高校の前身である盛岡実科高等女学校を創設しました。このとき「誠の心をもつ人間の育成」という建学の精神を基に、女子教育の理想像として「気高く」「優しく」「凜々しく」という3つの柱が生まれたのです。

 私たちは、この教訓を「時代とともに変遷する社会を貫く真理」として、大切にしています。それぞれの言葉の頭文字を取って「け・や・り」と呼ぶこともあり、寄宿舎の名前にもしているんですよ。

私立女子校ならではの魅力

 私が岩手女子高校の講師として着任した55年前、学校の周辺は建物もまばらで静かでした。今では中心市街地に隣接する「まちなかの学校」になり、学校を取り巻く環境は大きく変わりましたが、生徒たちののびのびとした明るさは、今も昔も変わらないです。
 女子校ですから、リーダーを務めるのも力仕事を担うのも女子生徒。性別による役割分担意識などに囚われず、自分の希望や適性に合った役割を全うできる、自由闊達な雰囲気があります。学年を超えた生徒同士の仲もいいですね。

 また、私立学校で先生の異動がないので、いつ来ても知っている先生がいらっしゃいます。ですから、卒業生がよく顔を出してくれるんです。子どもを連れて来てくれる卒業生や、ふらっと立ち寄ってくれる卒業生も多いです。何年経っても、こうして顔を見せてくれるのは嬉しいですし、学校という場所をベースにして、卒業生同士のつながりも生まれています。これも、私立ならではの良さだと思いますね

生徒を育てる地域との関わり

 まちなかに学校があることもあり、地域との関わりが多いのも本校の特徴だと思います。学校行事には、いつも周辺の町内会長さん方を招待していますし、中津川の河川敷清掃にも、本校の生徒が自主的に参加しています。また、夏の風物詩「盛岡さんさ踊り」も、高校のチームとしては一番早くから参加しています。
 そのほか、福祉教養科は、介護施設などへの訪問も多く地域の方々と触れ合う機会が多くありますし、看護科は高校総体などで救護係として活躍。経験を通して成長できるフィールドが、学校の外にも広がっています。

100周年のその先へ

 本校は今年で創立100周年を迎えます。秋にはマリオスにて記念式典を開催。生徒たちも司会や裏方などで活躍する予定です。
 世の中が目まぐるしく変化し、女子教育にも変化の波が押し寄せているなか、無事に100周年を迎えることができるのは、ひとえに周りの方々、歴代の校長先生、教職員、そして卒業生のご支援があったからであり、みなさまに深く感謝をいたしております。これからも、岩手女子高校についてのご意見をどんどん寄せていただき、これまで以上に母校に関心を持っていただけたら幸いです。

 100周年のこの先、変化の激しい時代、これからはその変化に適応する教育が求められていくことでしょう。しかしその一方で「人としてのあり方」はずっと変わりません。いつの時代も「誠の心をもつ人間の育成」は、私たちの教育の根幹です。岩手女子高校はこれからも、やわらかな感性と確かな判断力を養い、心身共に健全な、人間的魅力にあふれる「け・や・り」の精神を持った女性たちを育てたいと思っています。

創設者/三田俊次郎先生・初代校長、三田てる先生

参考資料/岩手女子高校創立80周年記念誌「未来への扉」、創立90周年記念誌「未来への架け橋」

澤野 桂子 さん

盛岡市生まれ。盛岡第二高校、日本女子大学家政学部食物学科卒業。岩手女子高校教員(食物)などを経て、平成5(1993)年同校校長に就任。平成13(2001)年より学校法人岩手女子奨学会の理事長を務める。今でも日本伝統文化と栄養学の授業を受け持つ現役の教育者

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