東日本大震災から二カ月後、多くの被災者が身を寄せる釜石カトリック教会を訪れた髙木さん。家族や家を流され、学校や職場、故郷を失った人々は、心に大きな悲嘆を抱えていました。それぞれの悲しみに耳を傾け、苦しみを受け入れ、釜石市から大船渡市、福島県飯館村、陸前高田市、宮古市、福島県南相馬市と回り、被災者の心の叫びに寄り添ってきました。
岩手の避難所でのこと。その方は娘を抱いて、津波の中を走って逃げました。ようやく避難者が集まる坂までたどり着き、先に娘を上げ、自分も引き上げてもらいホッとした次の瞬間、草の上に寝かされ黒い水を吐き出しながら心臓マッサージを受ける娘の姿が。 「もっと高く抱いていれば、娘は助かったかもしれない。この腕が悪い、この両腕を切ってください」と、その方は何度も何度も訴えました。その訴えは、今もまだ続いているといいます。髙木さんは、多くの被災者と向き合い、癒えない苦しみを受け入れ、心を寄せ続けてきました。深い悲しみは、簡単に癒えるものではありません。少し元気になっては落ち込むアップダウンの波の中で、少しずつ右上がりになっていくものです。この10年、悲しみ苦しみ続ける人々がいる一方で、苦しみの中からたくましく元気を取り戻していく人々の姿も見届けてきたといいます。