シルクハットと蝶ネクタイがトレードマークの村上さんの特技はマジック。児童館や敬老会などで披露し、笑いと感動を届けています。「一本の紐だけで喜んでもらえるんだから、楽しいですよ」と笑顔を見せます。マジックのほか敬老会で使うさまざまな道具は「お金をかけず手作り」がモットー。回転ダーツは自転車のホイールと発泡スチロールのふたで、グラウンドゴルフのホールポストは鉄の棒を曲げて溶接し、スタートマットはベルトコンベアの廃材を利用し仲間と一緒に作りました。「人に喜ばれると自分も嬉しい」と村上さん。工業高校の機械科でものづくりを学び、中学校で社会と美術を教えた経験が活かされています。
なぜ人を喜ばせることにこだわるのか、その理由をたずねると「母の言葉がずっと心にある」と村上さん。3歳で函館大火に遭い、火の粉で囲まれた市街地から母の機転で函館山に逃れ九死に一生を得ました。「熱い熱い」と海へ川へと逃げた人の多くが命を落としたことを、後に教わりました。「お前は一回死んだようなものだから世の中のために良いことをして生きなさい」という母の言葉が、村上さんの生き方の軸になっています。
「世の中のために」と村上さんがボランティア活動を始めたのは高校生の時でした。戦後、満洲、中国、シベリアから復員兵が続々と帰還する中、黒沢尻駅(現北上駅)で兵隊さんにお茶を提供したのが始まりです。高校を卒業し教員になった後も、自費で紙芝居を購入し地域まわりをするなど、ボランティア活動は今日まで続いています。人に喜んでもらうことが自分自身の健康法という村上さん。「今日こんなことやって喜んでくれたから、次はあれをやってみよう」と頭の中は常にアイデアで溢れています。「アイデアは出るけど実際には一人ではできっこないですよ」と村上さん。一緒に動いてくれる良い仲間がいるから楽しく活動ができ、その結果が「エイジレス章」につながったと話します。
今後も、人に喜びを与えて自分も楽しくなることを続けていきたいと話す村上さん。老人クラブの活動も、メンバーの年齢や体力を考慮し、無理なくできるよう工夫する必要があるといいます。加齢と共に聞こえ方や歩行に不安が出てきたという村上さんですが、4kgのダンベルを握り筋トレをする姿は元気そのもの。「気まぐれで500回やることもある」というから驚きです。自分の育てた野菜で好きなおかずを作り、毎晩コップ一杯のお酒を楽しみ、自立した生活を送る村上さん。年齢を重ねながら誰かの喜びを自分の喜びとし、お互いに助け合い、支え合うことの大切さを実感しているといいます。