岩手県立博物館では、東日本大震災の被災文化財修復作業も行っています。「古いものや剥がれたものを修復する専門家はいますが、海水に浸かったものを修復した経験のある専門家は一人もいませんでした」と髙橋館長。土砂や塩分でカビが生え異臭を放つ文化財を、一つ一つ手探りで洗浄・乾燥し修復。一刻を争うものは、学芸員が全国の友人知人に助けを求めました。「人とのつながりと自ら動く力の大切さを実感した」と髙橋館長。未だ16万点が手付かずのままですが、最後の1点まで修復し戻るべき場所へ帰す努力が続いています。
「この修復活動がなければ、館長の職を引き受けなかっただろう」と話す髙橋館長。岩手県立高田高等学校に赴任後、わずか一年で異動となり、東日本大震災が発生しました。「本当なら私も被災していたはずなのに、申し訳ない」という気持ちが膨らむなか、前館長から「館の運営と陸前高田市の被災文化財などの再生活動を継承してほしい」と声がかかりました。引き受けたからには役に立ちたいと、被災文化財修復事業の継続を国会議員に直談判するなど「高田への恩返し」に奔走しています。そして、悲劇を二度と繰り返さないために「東北発 博物館・文化財等防災力向上プロジェクト」の中核館として、台風や大雨などの災害を予知し、被災する前に文化財を避難させる仕組み作りにも着手。「画期的なものになるんじゃないかな」と髙橋館長も大きな期待を寄せています。
「まだまだ、やりたいことはあります」と髙橋館長。博物館での落語会「博語会」や東北初となる「ポケモン化石博物館」などアイデアは尽きません。「大人も子どもも、楽しいから来て、いつの間にか学んでいたというような、コミュニティの場として博物館の魅力を創りたい」と話します。博物館で見聞きし刺激を受け、何かに興味を持つきっかけになれば嬉しいとのこと。お散歩がてら博物館の階段を上り、好奇心の扉を開放してみませんか。