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10.292016
よみがえる明治の技法

一棹の箪笥に使われる部材、およそ1000点。使用されている鉄釘は500本以上。圧倒的な堅牢さと、水すら通さない機密性を兼ね備えた「船箪笥」を、現代に蘇らせた職人が紫波町在住の木戸さん夫婦です。ご主人の木戸良平さんはもと新聞記者。取材を通して様々な物作りの職人に出会い、深く感銘を受けたそうです。自分も職人の道を目指そうと、建具師四ツ家芳雄氏に入門。ところが同氏は入門2カ月余りで急逝。やむなく訓練校で木工の基礎を学びつつ、古家具の修理などを通して木工、金具製作、漆塗りの伝統 技法を習得し、1992年、紫波町に「箪笥工房はこや」を設立しました。船箪笥とは、江戸時代から明治にかけて、日本海を往来していた北前船の船頭さんが愛用していたもの。当時の船頭さんは今でいうところの〝会社の経営者〟であり、北前船は〝貿易会社〟そのもの。取引する上で必要な現金・印鑑・帳簿・通行手形などの貴重品を保管する金庫として使っていたようです。話だけで聞くと「箪笥で貴重品を守ることができるのか」と疑問に思いますが、実物を見ると一目で納得できます。使う木材は欅の一枚板。美しい彫刻が施された鉄板で随所を補強されており、素人目にも堅牢さが伺えます。扉を開けるためには数本の鍵が必要で、開けてもまた鍵のかかった引き出しが顔を出します。なるほど、確かにこれは金庫として使われていたのも納得だ。と思ったのもつかの間、「船箪笥はここからが面白いんです」と得意げに話す木戸さん。見る見るうちに引き出しが分解され隠し扉や箱が出てきます。本当の貴重品を隠すためのカラクリが、小さな箪笥に秘められていました。この箪笥を作るためには数え切れないほどの部品が必要なのですが、木戸さん夫妻はその全てを二人三脚で手作りしています。釘も全て手作りだというから驚きです。毎日休みなく作り続け、1つの箪笥が完成するのは最低でも半年後。そのため、木戸さんの作る箪笥は3年待ちの状態です。 木戸さんは「箪笥作りは無我夢中で打ち込める充実感がある。ストレスを感じないから休みは必要ないね」と楽しそうに話し、今後も体の動く限り作り続けたいと意気込んでいます。