冷めない好奇心と探究心

冷めない好奇心と探究心

インタビュー
フラワー&ファーマーズマーケット Mファーム 代表取締役社長  米谷 享子さん
フラワー&ファーマーズマーケット Mファーム 代表取締役社長
米谷(まいや) 享子さん
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● 緑化都市開発とヒューマンパワー

 現代社会の環境問題や自然災害。昨今の都市開発においても、自然環境が有する多様な機能を活用した開発が脚光を浴びています。

 盛岡市では、本宮の盛岡市中央公園に来春「ビバテラス」という、図書館やカフェなどが軒を連ねる憩いの空間が誕生予定です。そのビバテラス全面開業に先駆けてオープンをした園芸・産直施設「Mファーム」。ここの代表を務める米谷享子さんは陸前高田市出身。東日本大震災を機に滝沢市へ転居し、この度Mファームを開店させました。元気あふれる米谷さんに、これまでの歩みとこれからのMファームへの思いをお聞きしました。

 昔から商店を営む家庭に生まれた米谷さん。住まい兼店舗の家で三人姉妹の長女として生まれます。厳格な祖父にはしょっちゅう叱られて蔵の地下室に閉じ込められるようなワンパクな子だったそう。親族が経営するスーパーの開店に伴い、5年ほど大船渡市に移住。当時の大船渡市はセメント業や水産業などが栄え始めの頃で入学した小学校は1学年15クラスにも分かれていたとか。

 その後、家族で陸前高田市へと戻った米谷さんは商店を手伝いながら、中学・高校と軟式テニスに熱中していきます。「勝負事で勝つことの楽しみをテニスで覚えた」と当時を振り返ります。

● 植物好きが念願叶って園芸の道へ

 部活もさることながら高校で受けた生物の授業に感銘を受けたという米谷さん。大学進学で行った仙台では「野草園や植物園巡りをしては、今まで知らなかった植物をたくさんみて趣味の知識を膨らませました」と植物園に足を運んでいたとか。

 大学卒業後に母を亡くし、残された祖父と商店の面倒を見るために帰郷することになった米谷さん。しかし、既に結婚していた米谷さんは育児と商店の両立に加え、祖父と夫が同時に入院するという事態に立たされ、やむなく商店を閉めることに。

 そんな米谷さんに転機が訪れます。「全国チェーンのホームセンターが陸前高田に新規開店のためスタッフ募集があったんです。以前から園芸部門で働きたかったのですぐに応募しました」趣味で培った豊富な知識に採用者も驚き、晴れて雇用され園芸部門を任された米谷さん。以前に商店を営んでいたのも相まって、顔なじみの地元のお客さんが次々と来店。自身で3年計画を打ち出し、さまざまな仕掛けや親切丁寧な接客を展開。3年後には系列店に比べて倍の売上を達成させたと言います。

「勤めていた店は全国に千店舗ほどあるホームセンターで、年に一度の売り場コンテストがあったのですが、園芸部門で数年間連続優勝を果たしました。続けて優勝できたのは自信になりましたね」。趣味が高じた園芸の知識、テニスで培った勝負事の強さ、商店を営んだ経験が糧に米谷さんならではの結果だったのかも知れません。大好きな園芸に囲まれて勤めたお店で10年余り過ぎた頃、東日本大震災が起こります。

● 人とモノをつなぐワクワクを

 その日は叔母の葬儀のため、家族全員で大船渡にいたという米谷さん。迫りくる津波が黒い壁のようで始めは津波と分かららず、周りの声で気づいたほどだったといいます。車を乗り捨て高台に登り、一瞬の判断で助かったと、今でも当時を思い出すそうです。「自分は生きていても良いのかと悩むこともあった」と震災の傷痕が埋まることなく、夫の単身赴任先の滝沢市へと転居します。

 いつかフラワーアレンジメントの教室を持ちたいと考えていた米谷さんは心の傷を埋める作業とともにアレンジメント資格を取得、内陸にいながら2拠点で教室を始めます。「盛岡と陸前高田で始めました。特に高田では、震災前のお客さんとも何人も再会できて、互いに心のケアにもなりましたね」と傷を癒す空間でもあったと語ります。教室も定着しだし、再び園芸の仕事をしたいと、関係業者とともに園芸店の開業を考えていたところ、ちょうどビバテラスの話をもらい開店を決意。「当初、園芸店のみの予定でしたが、ビバテラス側の考えを聞いて幅広いお店にしたいと思いました。そこで、実店舗を構えずにスイーツやお弁当を出している方々がいると聞いたので、そんな人たちの商品を並べ、人とモノをつなぐことができればみんな喜ぶのではと考えました。想像してワクワクしましたね」と米谷さん。6月の開店時には33社だった取引先が今ではなんと78社(10月現在)。念願の園芸部門も広くオシャレに用意されて見る人を魅了します。「来春にビバテラスが開業すると学びのスパイスも加わって、さまざまな児童の支援などを各施設が連携して行える。そうなると改めてMファームの立ち位置が変化します。これからもっとワクワクしますよ」と好奇心の笑顔が絶えない米谷さん。教室とお店の両立を図りながら、震災を乗り越えた新たな縁に盛岡の新しい都市開発が動き出しています。

園芸コーナー
園芸コーナー

念願叶って作った園芸コーナー、米谷さんの知識と思いが込められています

プロフィール

1957年、陸前高田市出身。盛岡市中央公園内、Mファーム代表。幼少期を家業で営む商店の関係で大船渡と陸前高田で過ごす。高田高校、東北学院大学を経て母の他界を機に帰郷。高校時代から興味を持っていた園芸の仕事に就いていたが東日本大震災により滝沢市に転居。転居後、開校したアレンジメント教室は現在もMファームと両立して開校中。趣味はプリザーブドフラワー、アレンジメント、音楽鑑賞。座右の銘は「陽はまた昇る」

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