十和田八幡平国立公園の西に位置する焼山は、有史以降、水蒸気噴火を断続的に発生させ、今でも微弱ながら火山活動を続けている。御所掛(ごしょがけ)温泉と焼山山頂を結ぶ路(みち)は2つ。毛(もう)せん峠を経由するか、ベコ谷地から湯ノ沢沿いに登る方法がある。どちらのコースも最初は、生命あふれる樹林帯を歩くが、やがて不毛の火山エリアへと向かう。
御所掛温泉から樹林帯を抜けて国見台まで上がると、視界は一気に開く。ガンコウランやコケモモを敷きつめた毛せん峠で一服して、焼山を眺めてみよう。眼下に焼山山荘がポツン。笹グリーンの山頂が左奥にそびえ、中央火口丘の鬼ヶ城をはさんで右奥へ火口壁の稜線がのびていく。こうして生と死が混在した不気味な風景が全貌を現す。
お花畑のベコ谷地を経由すれば、澄川地熱発電所の南面より湯ノ沢に下り、空沼の外輪へ回りこんで山荘の路に合流する。鬼ヶ城のスリリングな岩場を巻きこむとすぐ、乳白色の巨大な湯沼が現われる。ボコボコ沸く熱湯、黄色い穴から噴く有毒ガスが鼻を突く。この世のものとは思えぬ地獄の光景だが、ゾクッとする不毛の「風景美」だ。湯沼の火口壁に残置された木材は、昭和の中ごろまでイオウを採取した証しであろう。
いつぞや山荘の前で、散乱したウサギの死骸を見た。イタチやテンは機に応じて敏なり、人の気配で姿をくらまし、全部たいらげるまでやってくる。命の攻防に情け容赦はない。湯ノ沢は40℃前後の強酸性。にもかかわらずイトミミズの類だろうが、10mmほどの赤い生命体がワサワサと浮遊していた。
「火口湖の壁を横ぎる子グマを見た」とか「ベコ谷地で、クマが座ったまま動かない」などの困った情報も聞く。小さな生物も大型獣も、この火山地帯を健気(けなげ)に生き抜いている。