●自然を守る狩人たち
春の兆しが感じられるようになると新鮮な空気に触リフレッシュしたいと誰もが思うはず。人気のトレッキングや山菜取り、難所を越えての登山など山にでかけようと考えている方も多いのではないでしょうか。新緑を眺めながらの散策は清々しく、どんどん足が進んでいきます。しかし山には必ず野生動物たちのテリトリーがあり、不用意に踏み入れれば命の危険も。毎野生動物による人や農作物への被害のニュースが多く報じられますが、同時に猟友会という名前も耳にする機会が増えました。猟友会がどんな組織でどのような活動をしているか、知っている人は少ないでしょう。熊や、鳥などの害獣や外来種の駆除だけではなく、野生動物の生態調査、雉を増やすための放烏事業、環境保全のため実のなる木の植樹、狩猟中の事故を防止するための目立つ色の専用キャップやベストの無償提供など自然環境や生態系を守りながら狩猟者を支える組織です。
●全国の猟友会を束ねる存在
そんな岩手県猟友会の会長を勤める佐々木洋平さんは大日本猟友会の会長でもあります。一関市花泉町出身で農家の長男だった佐々木さんは、後を継ぐため高校卒業後は東京農業大学へ進学。畜産業を学んでおり、牧場に勉強しに行く機会が多く「研修先の牧場主が銃を持ち馬に乗った姿が勇ましく本当にかっこよかった。自分も同じようになりたいと強く思った」とそのとき抱いた憧れが猟友会へ入るきっかけだったと話します。
卒業後は盛岡市の牧場で酪農業を始め「雄の仔牛を育てる仕事をしていた。雄の仔牛は需要があまりなくもったいないと思い、大きく育てて精肉として出荷していた」と貴重な食の資源の有効利用を考えます。しかし年後牧場を盛岡市に寄付することになり仕事も簡単な管理業務だけに。退屈に感じていたころ栃木の牧場で働く先輩から、手伝ってほしいと声がかかります。酪農の仕事をしたいと思っていた佐々木さんは栃木の牧場へ、再び仔牛を育てる仕事を始めます。5年ほどで花泉町へ戻り今度は自分の牧場を開きます。今までの牧場での経験を活かし牧場経営してきましたが、地域の閉塞感を打破したいと敢然と県議会議員選挙に立候補。周囲の予想を覆し見事当選を果たします。「6年ほどやってきた牧場は人に任せようとも考えたができなかった。無念だったが牧場は諦め本格的に政治の道に進む覚悟を決めました」と胸の内を明かします。念願だった牧場経営を手放しまで政治に携わり、衆議院議員まで勤め精力的に活動してきたのは、猟友会への思いがあったからでした。
● 未来のために、孤軍奮闘
昔は全国に4万人ほどいた猟友会メンバーも今は10万人ほどに減少。理由は猟友会を取り巻く法規制の厳しさから。「銃を持つには数カ月かけて所有者の家族や近隣の人にまで聞き取り調査が行われます。調査の末、ようやく銃の所持が認められます。以前は聞き取り調査を受けた周囲の人から白い目で見られ、住んでいたところを追い出された人もたくさんいました」と銃を持つハードルの高さを教えてくれました。ほかにも厳しい法規制が多々あり、このままではメンバーがさらに減り若い人が増えず猟友会が衰退してしまうと危惧します。
「今でも記憶に残っているのは震災でメンバー300人ほどの銃が津波で流されたとき。銃は一丁ごとに所持する許可を出してもらう必要がある。やっと手にしたのに許可された銃が流されたことで初心者と同じ扱いになってしまった。納得できなかったが、その事実に愕然とし大勢のメンバーが辞めていったことがとても残念だった」と悔しさを滲ませます。その後、法律が改正され災害時にはその限りではないと特例が認められるようになりました。
猟友会維持のため議員だった佐々木さんは大日本猟友会会長としての思いを胸に、時代に合った仕組みにしたいと孤軍奮闘し続けました。活動を続けて十数年、銃の携帯・運搬の仕方や狩猟免許の更新手続きなど狩猟を取り巻く仕組みに変化が出てきていると言います。
● 猟友会の変化
佐々木さんの活躍のおかげで猟友会メンバーの狩猟ライフは守られメンバーの減少も抑えられてきています。最近では狩りガール”と呼ばれる狩猟を始める若い女性たちも出てきました。「今は猟友会全体の2%が女性。5年以内には7%になりそうな勢いで増えてきている。女性は順応性が高く器用でしっかりしてるから厳しい銃の管理に向いている。女性メンバーが増え猟友会が活発になってほしい」と狩りガールにも期待が高まっています。
野生動物の被害を事前に食い止め生態系を守る活動を行っている猟友会の皆さんはほとんどボランティアで活動をしているそう。本当に狩猟が好きじゃないとこのような活動は続けられないと言います。「いろんな趣味をしてきたが狩猟だけは辞められなかった。獲物を待っている間も楽しく、狙いを定めて撃ち抜く一瞬はほかでは味わえない。狩った獲物は山の神様からの贈物”というまたぎの教えを守り自然に感謝し命を尊びながら恵みをいただく。こんなに奥深い趣味はない」と狩猟の楽しさを語ります。
「農家が減り自然界と人の生活圏の境がなくなってしまい猟友会の役割が増えるなか、岩手の山を知り、そこに暮らす動物たちをよく知る自分たちだからこそできることがあると思っている。最近では住民の方からご苦労様と声をかけてもらえるようになり活動が浸透してきているのを感じる。これからも岩手の山と関わっていきたい」と意欲を燃やします。