岩手県立図書館100年の変遷

岩手県立図書館100年の変遷

インタビュー
岩手県立図書館 館長 藤岡 宏章さん
岩手県立図書館 館長
藤岡 宏章さん
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● 岩手県立図書館の始まり

 大正11年4月に誕生した岩手県立図書館。今年4月で創立100周年を迎え開館当初、千三百冊ほどの蔵書は今では80万冊にまで増え、時代と共に変わる県立図書館への期待に応えてきました。「時の首相、原敬氏が図書館の設立に大きく関わっています」と教えてくれたのは館長の藤岡宏章さん。100年続く県立図書館の歴史をお聞きしました。

「明治時代、公共の図書館はなく有志で作られた玉東舎という有料の会員制図書館しかありませんでした。自分たちで図書館を作り出す姿勢から県民の読書需要は当時から高かったと考えられます。そのため公共図書館を望む声は多く、嘆願書が提出されましたが財政面で厳しいと実現しませんでした」。その後、教育関係者で結成された盛岡市教育会により盛岡図書館が設立。無料で利用できましたが運営が安定しなかったらしく4年で閉館。それでも他機関により開館・移館しますが公立という形ではなかったため、県立図書館設立が何度も協議されました。

● 原敬氏の故郷への思い

 難航する県立図書館設立が大きく動いたのは大正9年、原敬氏が盛岡に帰省し岩手県知事と盛岡市長に図書館設立の話を持ちかけます。「原敬氏の根幹となる政策に教育振興があり、県民の文化教養を高めるには公共図書館が必要だと考えていたようです」と設立のため当時の金額で1万円、現在で数千万円という大金を寄付したそう。「原敬氏から盛岡市長宛の書簡で、『増築は面倒だから最初から書庫を広く作るように』、『二階建てにしてはどうか』など設計面の助言もしています。何十年先を見据え、図書館が県民の文化教養を高め地方文化の発展につながると考えていたのだと思います」と教えてくれた藤岡さん。哲学や宗教、法学など多岐に渡る自身の蔵書約千三百冊が寄付されたことからも岩手の文化発展を望む強い思いが感じられます。

 そんな思いが込められ岩手県立図書館が大正11年4月に開館。洋風建築の二階建てで普通閲覧室を始め児童用、婦人用と分かれ新聞閲覧室、特別閲覧室を設けるなど、どんな人でも利用できるよう工夫がされた県立図書館が誕生しました。

● 岩手県立図書館のこれからの役割

 開館の翌年から図書館の利用促進と読書普及を心がけ、読書の機会が少なかった女性のため婦人読書会の立ち上げや農村部の若者のため本を送る巡回文庫など本への意識向上に取り組みます。昭和になると遠方にも本を届けようと海浜図書館の開設や自動車での移動図書も実施され、多くの人に本を届けてきました。「市町村立の図書館ができ始めると移動図書など地域密着型の活動はそちらに委ね、県立図書館はより専門的に調べたり学びたい人たちの要望にも応える役割を担うようになりました。貴重な資料の収集・保管をしてきているので最近では調査研究で海外からも問い合わせがあります」と時代と共に図書館の役割が変わってきたと言います。「現在行われている企画展では原敬氏が盛岡市長に宛てた実際の手紙や開館当初の図書館の模型、原敬氏から寄付された蔵書、『原敬文庫』から昭和時代、図書館の様子を撮影した写真など図書館の移り変わりがわかる貴重な資料を展示しています。創設100周年を迎え原敬氏の思いを継ぎ、県民の皆さんに県立図書館の意義や役割を認識してもらえるよう活動していきたいです」と時代を振り返り、これから先を見据える藤岡さん。

「今は交流の場としても期待され、本館は複合施設にあるので借りた本や資料を持って別の研修室でワークショップをしたり、館内の資料を使い講師を招いての参加型の企画も行なっていきたいと思っています」と意欲を燃やします。創立100年の節目に新たな1ページが加わりそうです。

展勝地さくら染めタオルハンカチ
展勝地さくら染めタオルハンカチ

経済産業大臣賞を受賞した「展勝地さくら染めタオルハンカチ」。染色されない特殊な糸で刺繍されているので桜の花が浮き出ているようで美しい

プロフィール

1962年生まれ、盛岡市出身。教員として教育の現場に長年携わり、昨年4月に岩手県立図書館館長に就任。現在行われている岩手県立図書館創立100周年展では原敬氏から盛岡市長に宛てた書簡や創立当初の図書館の模型などを展示。5月5日まで県立図書館の企画展示コーナーで行われる

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