失敗からの再設計

失敗からの再設計

インタビュー
株式会社久慈設計 代表取締役社長 久慈 竜也さん
株式会社久慈設計 代表取締役社長
久慈 竜也さん
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● 入退院を繰り返した 幼少期を乗り越えて

 1931年、盛岡市紺屋町の小さな建物の2階に「久慈工務所」として誕生した株式会社久慈設計。以来91年という歴史を刻み、活躍の場を広げています。

 代表取締役社長として老舗企業を牽引するのは、創業者の孫に当たる久慈竜也さん。現在のアクティブな姿からは想像できませんが、子どもの頃は体が弱く入退院を繰り返したといいます。「自家中毒を起こす虚弱児で、病院の近くにある母の実家に預けられていました」と小学校時代は思うようには通えなかったと話します。「中学校では神子田の母の実家から自転車通学が認められてね。そのおかげで体力がついて、2年の時にはバドミントンで県大会にも出ましたよ」と久慈さん。その後は体調を崩すことなく岩手高等学校から函館大学商学部に進学、経営を学び卒業後には株式会社久慈設計に入社しようと直接面接を受けます。が、なんと不採用に。川徳で働こうかと、社長である父に報告すると、その場で怒られ入社になったといいます。

 仕事にも慣れ経理課長として忙しい日々を送っていた入社3年目の冬、大事件が勃発します。八戸市で起きた贈収賄事件で、盛岡市の本社に家宅捜索が入り指名停止に。「事件から37年経ち周りは忘れているかもしれませんが、過去に悪いことをした実績があるということを僕は忘れてはいけない」と静かに話す久慈さん。この事件をきっかけに「正しいことだけを正々堂々とやっていこう」と強く肝に銘じたといいます。

● 信頼回復から再建 そして海外進出へ

 指名停止を受け業績は悪化、会社は存続の危機に直面していました。「社員含み、たくさんの人に助けてもらいました。失った信頼を一日も早く回復しようと必死でした」と久慈さん。そんななか、自分たちの技術力を正々堂々とアピールする手段として生まれたのが、広報誌『Always with a SMILE!』でした。思いを込めた広報誌を片手に、お客さまを訪問し続けることで技術力の理解や、信頼の回復につながったと話します。

 そこより2001年には仙台、2008年には東京に支社を開設。東京消防庁国分寺庁舎の免震設計など技術力が要求される案件での受注が続き、会社も軌道に乗り始めます。「大きな転機となったのは、静岡のお客さまからタイ王国の工場の建て替え工事を受注したことです」と久慈さん。2019年、タイ王国に現地法人を設立し初の海外案件が始動しました。ところが、翌年4月に久慈さんは脳梗塞で入院、5月には心臓のバイパス手術を受け、仕事に専念できない日々が続きました。大きなチャンスとピンチが同時に訪れる中、奥さまの献身的な支えで大病を乗り越え、6月にはスピード復帰を果たします。海外案件第一号の「タイ王国バンコク SUS BKK新工場」は2021年5月に無事完成、昨年11月には現地を訪問する夢も叶いました。「タイ王国に現地法人を持つ唯一の設計会社として、今後フィールドが広がる可能性は大きい」と期待が膨らみます。

 盛岡から仙台、東京、海外へと活躍の場を広げる久慈設計の次のビジョンは、東日本大震災でお世話になった世界の方々に恩返しをすること。「海外出身のエンジニアを採用・育成し、祖国に戻って活躍できるよう支援しています」と久慈さん。また、タイ王国では学校のトイレの改修事業やNPOの事業に協賛するなど、子どもたちの就学も支援したいと話します。「子どもは生まれる場所も親も選ぶことはできないからね」と久慈さん。岩手県PTA連合会の会長を7年間務めた時には、会の法人化も行ったとか。「子どもたちから預かった大切な財産だからしっかり管理しようと、当時教育長だった船越さんに掛け合って社団法人として登記しました」と当時の苦労を振り返ります。

 教育の現場で学び感じたことが、子ども食堂やアスリートのサポートなど現在のさまざまな活動にもつながっています。出会いや偶然が重なり、大事な局面で人に助けられたおかげで今があると話す久慈さん。これまで同様、黙っていないで物を申し、待っていないで動き出すことで、新たな出会いとチャンスをつかみ、いつか必ず英語圏に進出したいと夢を語ってくれました。

ジョン・コルトレーンとスタン・ゲッツに影響を受ける

ジョン・コルトレーンとスタン・ゲッツに影響を受ける

プロフィール

1958年生まれ、盛岡市出身。3人兄弟の長男に生まれ、大学卒業と同時に株式会社久慈設計に入社。祖父、父、叔父に続き2007年から代表取締役社長を務める。趣味はドライブ。昨年一目惚れして購入した中古の「ダイハツ・ミラジーノ」で、月に一度は盛岡〜東京間を日帰りで往復。創業100周年に向け「不易流行」を信念に掲げる

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