市民が主役のまちづくり

市民が主役のまちづくり

インタビュー
大船渡市長 渕上清さん
大船渡市長
渕上 清さん
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● 政治の道へ導いた青年会議所の経験

 大船渡市議会議員を経て、2022年に大船渡市長に就任した渕上清(ふちがみ きよし)さん。市議になる以前は会社経営をしていましたが、青年会議所での経験がきっかけとなり政治の道へ。「直接的なきっかけは青年会議所ですが、20歳の時に長野の修行先でお世話になった工場長との出会いが、今の私につながっている」と話します。

 専門学校卒業後、家業を継ぐために長野市の金属加工会社で3年間修行した渕上さん。「岩手から一人で来たということで、父親と同世代の工場長が気にかけてくれて。仕事だけでなく地域のさまざまな行事に連れ出してくれました」。野球部だった渕上さんは、朝野球チームでも活躍しました。盛町の七夕祭りで子どもの頃から横笛を吹いていた経験を買われ、長野でも秋祭りに参加し地域の方に暖かく迎えられました。地域のまとめ役だった工場長のおかげで、地域活動の楽しさを知ったといいます。

 23歳で大船渡市に戻り、地域公民館や消防団、青年会議所と誘われるがままに入会した渕上さん。中でも、青年会議所では市や関係機関と連携し、市民を巻き込んで事業を成功させることに大きなやりがいを感じました。逆に、何か事業をしようとしても、制度と制度の狭間が埋め切れず断念せざるを得ない悔しい経験もしました。「まちを元気にしたいという思いはみんな一緒だから、多くの人に関わってもらって事業を進めることに意義があると感じた」と渕上さん。そして、それぞれの思いを事業として実現するためには議会で発言権を持たなければならないと、政治家になることを決めたといいます。「最初は30代後半、次は40歳頃かな、市議に立候補しようとしましたが、父親をはじめ家族の猛反対で断念しました」。しかし諦めきれず、ようやく家族の気持ちも変化してきたころ、大船渡市議会議員に立候補し、52歳で政治の道へ踏み出しました。渕上さんは「声を聴く動く支える」をモットーに、地域に入り込み市民と膝を交え生の声を聞きました。「例えば、高齢者が救急車で運ばれて帰りが夜になった場合、自宅までの交通手段がない」と渕上さん。市議を4期続ける中で、制度と制度の狭間で苦しんでいる人たちを救うためには決定権を持たなければならないと奮起し、2022年に64歳で大船渡市長に就任しました。

●市民と共に創る大船渡市の未来

 大船渡市の魅力についてお聞きすると「海、川、山とフルスペックで自然が満喫でき、人も良くて本当にいい所だと移住者に褒められます」と渕上さん。三陸道も整備され、県内外から多くの人が足を運びますが、内陸からのアクセスが課題だといいます。「内陸へのルートは峠越えになるので、特に冬場は難所となります。これを解消するため白石トンネルの新ルート計画が動き出しました」。住田町、遠野市と連携し、早期着工に向けて取り組んでいるといいます。

 また、人口減少に伴う地域縮小も大きな課題です。大船渡市、陸前高田市、住田町の2市1町から成る気仙広域連合で連携し、10年、20年先の人口規模でも成り立つような行政サービスの仕組みを作っていかなければならないと話します。「人口減少・高齢化が進むと地域経済の縮小が懸念されますが、大船渡の強みは地元資本の企業が複数あること。モスバーガーの創業者も大船渡市出身です。大船渡は起業のまちだということを子どもたちに知ってもらって、生まれ育ったまちで事業を起こしてほしい」と渕上さん。昨年は、中学生を対象に地域の魅力を伝える「ふるさと教育講座」も始めました。また「大船渡ビジネスプランコンテスト」を実施し、グランプリに選ばれたプランを市と商工会議所がバックアップし、事業として育てる取り組みも行っています。「地域に暮らす人が地域の問題に向き合い、まちをつくる主役になってほしい」と話します。 

 先日、書類の中から発見した30年以上前に書いた「私の夢」に驚いたという渕上さん。「子どもの頃はプロ野球選手、学生時代は会計士、そして市長と書いてありました」。夢を叶え市長となった渕上さんの現在の夢は「結婚も出産も、子育ても起業も、老後も大船渡が良いと言ってもらえるような大船渡にすること」と笑顔に。まちを元気にしたいから、ワカメのボイル作業にもホタテの漁場にも、とにかく現場に出向き、そこで暮らす市民の声を直接聴く渕上さん。小さな声を大切に拾い上げ、市民が主役のまちづくりを進めています。

プロフィール

1958年、大船渡市生まれ。岩手県立大船渡高等学校卒業後、仙台市の専門学校に進学。長野県での修行を経て家業の渕上板金工業所(現:有限会社フチガミ)に入社し、2005年に代表取締役就任。2010年から大船渡市議会議員を4期務め、2022年に大船渡市長に就任。趣味は道の駅めぐりとゴルフ、時々ライブハウスでジャズを楽しむ。座右の銘は「努力は全ての扉を開く」

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