● 日本建築に魅力されミニチュアを制作
ガレージに並ぶ中尊寺金色堂、五重塔、六角堂など、日本の伝統建築のミニチュア。中でも一番の自信作は、今年8月に開催した作品展でも好評だった「平等院鳳凰堂」。元大工の原満征さんは「自分が好きで作っているだけなのに、見た人にすごいって言われると嬉しいですね」と笑います。
原さんのミニチュアは、外観だけでなく細部までこだわっており、引き戸が滑らかにスライドする様子や、建物内部に設けた階段など見どころが満載。大工としての経験を元に、釘を一本も使わず、手彫りのパーツだけで組み上げられており、その精巧さが、多くの人々を魅了しています。
原さんがミニチュア制作を始めたきっかけは、65歳の時に体調を崩したことでした。会社を退職し、依頼のある時だけ大工の仕事をする生活に変わり自分の時間が増えた原さん。ある日、何気なく手に取った子ども向けの歴史の本で「南部曲がり家」を見て、気持ちが動き出しました。「修行時代に神社仏閣を建てた師匠のもとで学んだことが影響しているのかな。やっぱり日本建築が好きで、宮大工もやりたかったんだよね」と原さん。「大工をしていたから材料は家にある。図面を引いたことはないけど、何とかして作りたいと思って勉強して。想像しながら図面を引いたけど、これが意外と面白くてね」と目を輝かせます。「南部曲がり家」の解体現場には何度か立ち会った経験があり、大まかな構造は分かっていたとか。「実際に作ってみて、出来栄えはまあこんなもんかなという感じだったけど、やっぱり日本建築はいいなと改めて思いましたよ」と話します。「南部曲がり家」の制作から約15年、一年かけて一作品のペースで日本建築のミニチュア制作を続けています。
●好きなことがあるだから楽しめる
昨年、原さんは変形性膝関節症の手術を受けました。まだ痛みはありますが、春の山菜に始まり夏は釣り、秋はきのこ採りと杖をついて山に入ります。「若い頃は狩猟もやったし、とにかく山が好きなんです。山に行きたいから毎朝スクワットして、夕方は自転車乗りして膝のために運動しています」と原さん。ミニチュア作りの屋根材となる杉の樹皮も、自分で木を伐採し皮を剥がし、平らに乾燥させます。「ミニチュア作りは、山の季節が終わる11月末から3月頃までの4カ月間。作業部屋にストーブ付けて、朝から晩まで好きなことして楽しいよ」と笑顔で話します。
原さんがミニチュアに使う細かいパーツはすべてノミで手彫りし、同じものを100個以上作ることもあるとか。「ミニチュアを作り始めてから集中力が増して、短気じゃなくなりましたよ」と、自身の変化を感じているとか。「80歳過ぎているのに細かい作業を夢中になってよくやっていますよ、最初は場所ばっかりとってと思ったけど、ボケ防止にもなるから今は応援しています」と、奥さまも作業を見守り、家族もみんなで原さんの取り組みを応援しているんだとか。
そんな原さんのもとには、引退して10年以上経った今でも後輩の大工が訪ねて来ます。「日本建築を教えられる大工さんが少なくなったからね、困った時に教えられるように、いつでも使える手作りの指導セットを用意しています」。65歳を過ぎてから始めた趣味が人を繋げ、原さんの人生に楽しみや喜びを生み、後輩のスキルアップにもつながっています。
ミニチュア制作の楽しさをお聞きすると「自分で作ったパーツを組み上げて、思った通りにできた時が最高に面白い」とのこと。「ずっと気になっているのは清水寺。高く組んだやぐらの上に建物が乗るでしょ、作ったら楽しいだろうなと思うけど背景の山をどうしたらいいか」と、次の作品への意欲も語ってくれました。夢中になれるものがあれば、誰でも人生を楽しむことができると話す原さん。好きなもの、得意なことを見つけて、この冬をアクティブに過ごしてみませんか。