● 原点は幼い頃の 探究心
壊れたおもちゃを直してくれる「おもちゃ病院」。心配そうな顔で壊れたおもちゃを持って来る子どもたちをおもちゃドクターたちが暖かく迎えます。その中の1人、関村伸弘さんは活動5年目のベテランドクター。訪れる一人一人の思いに耳を傾けながら大切なおもちゃを直してきました。
関村さんの得意分野は電気・電子系おもちゃの修理。小学生の頃、科学雑誌を読んで機械に興味を持ったのが今につながると話します。「壊れたテレビやラジオを開けて、どこが壊れているんだろうと分解して部品1つ1つをテスター(電子計測器)で測って調べているような子どもでしたね」と笑顔の関村さん。機械への興味や探究心は尽きず、高校は工業高校の電子科へ進学。電子部品などの基礎をはじめ、電子回路の図面作成などさまざまなことを学んでいきました。
そして、高校卒業後は就職のため上京。OA機器のメンテナンス会社でコンピューターの修理や保守点検など得意な技術系の仕事をしてきました。しかし会社の業態が変わり、営業の仕事も行うように。「会社の合併が何度かあり、途中からセールスエンジニアとして働くようになりました。最初は戸惑いましたが、良いサービスを提供するためにはお客さんとコミュニケーションを取らないといけないので、どんな使い方をしていたのか、困っていることはないかなど会話を大事にしてきました」と仕事を通して良い経験ができたと振り返ります。
●おもちゃと共に 思い出も直す
転勤で各地を飛び回り、十数年前に盛岡に帰郷。その後、関村さんが55歳を迎えるタイミングで今後の人生を考えるきっかけが訪れます。「会社でシニアを迎える年代向けの事前研修があり、研修日が近づくにつれて仕事以外で楽しめて人の役に立つことはないかと思うようになりました。趣味にできそうなものを探しているとおもちゃ病院の存在を知り、ちょうどおもちゃドクター養成講座の申込期間だったのですぐに申し込みました」と即決した関村さん。運良く空きが出て受講できることになり、おもちゃを直す時の心得や手順を学び、おもちゃドクターの資格を取得します。そして講座修了後、早速もりおかおもちゃ病院に連絡。見学から始まり、月に一回の開院日に欠かさず通ううちに簡単な作業なども任されるようになります。「半年後にはおもちゃドクターとして参加しましたが、直さなきゃと焦ってしまい、時間内に直せませんでしたね」とデビューは悔しい思い出に。その後、修理の腕前を上げるため、自分の子どもが遊んでいたおもちゃやリサイクル店で購入した壊れたおもちゃを使い、仕組みを観察したり修理の練習を行いました。いろんなおもちゃを見るうちに、一目で大体の構造や壊れた部分を把握できるようになったと言います。
そして担当分野も増え、楽しく活動していると、次第に訪れるおもちゃたちの共通点に気付きます。「親に買ってもらったおもちゃを自分の子どもに遊ばせたかったけど動かなくなっていたから直してほしいという方が多いんです。おもちゃが直ると記憶もよみがえるみたいで"お父さんはこうやって遊んだんだよ"と言ってお子さんにおもちゃを渡している姿を見て、自分はおもちゃだけではなく思い出も直しているんだと思うようになりました」とやって来るおもちゃには誰かの思いが込められていることに気付いた関村さん。持ち主にはこのおもちゃでないといけない理由が必ずあると感じ、なるべく元の状態に直すため仲間のドクターと相談したり、時には預かり、時間をかけて直す方法を考え、部品がなくて修理が難しい時には手作り部品を使ったりとできる限りの手を尽くしてきました。
平日夜や休日も預かったおもちゃを直す関村さん。おもちゃドクターの活動が日課になっていると話します。「最初は趣味探しから始まりましたが、活動を通して子どもたちの笑顔や"また遊べる、ありがとう"という言葉をもらいやりがいを感じています。これからも、皆さんの大切なおもちゃを直していきたいです」と笑顔で話してくれました。