【送仙山(おくりせんやま) 472.4m】「歩く脳」をかみしめる

【送仙山(おくりせんやま) 472.4m】「歩く脳」をかみしめる

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 山は凸凹した立体なので、眺める方向によって姿かたちが違う。だが、目立たない低山でさえ登った経験があれば、可憐な花や小鳥のさえずり、大気の流れや家畜の臭い、ときには濃厚に、ときにはぼんやり体感したシーンが突如として甦る。山名や伝承に託した逸話を見逃さない。かくして登山者は歩く脳と化す。

 岩手町と盛岡市・八幡平市にまたがる送仙山は、スパッと切ったような長い平坦な尾根が個性的である。その山容ゆえに「岩手山と姫神山の夫婦喧嘩のあげく、家来の送仙山が首を刎(は)ねられた」と、早池峰を巻きこんだ三角関係で語られることが多い。

 一方、西根町史では、地名にからめた雨乞い伝説が実(まこと)しやかだ。日照りに困った農民が「送仙山に登って大石をゴロゴロ落として雨乞いをした。大雨は降り続いてなお止まない。送仙山に棲む大蛇が這いだして長嶺を越え、山をフン切って上村川を下り、小袋の方に曲がって赤川に入った」。この逸話により、蛇が抜け出したところを「蛇抜け沢」、四つん這いになって越えた山を「四ツ長根」、横切ったところを「ふぎり」、大蛇が通ったところは湿ってばかり。また、送仙は「蒼前(そうぜん)」の当て字であり、農耕を支えた馬の守護神を祀った山とも言い、ひょうたん型の鞍掛山や狐森山が峰続きで寄りそう。

 送仙山は、国道4号の川口南大橋の信号を左折して、浮島小学校(廃校)で左に折れ、鶏舎の方向に進んで黄の看板「十和田幹線256」に駐車する。積雪期ならスノーシューで雪原へ向かうが、雪解け後は次の鉄塔まで車で上り、広大な牧草地の端っこを歩いて林間の登山路へつなぐ。

 山頂には三峰神社奥宮を祭る。送瀬山の幟(のぼり)は巌鷲山(がんじゅさん)にすむ鬼に対した送仙姫のことだろうか―数々の民俗伝承を読み解き、歩く脳をかみしめたいと思う。

送仙山
送仙山にまつわる伝承が面白い。大蛇がネロネロ這いだして歩いたとされる裾野は、見るからに広大な湿地帯である

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