ふつう世間では、ヘビは嫌われものである。体も動きも気味悪い、だいいち可愛くないし噛まれるのが怖い、と取りつくしまもない。そう端から嫌ってくださるな。2025年は巳年で干支の6番目、白ヘビは、夢に現れただけでも縁起が良い動物とされる。しかも弁財天のお使いだから、じり貧のお財布にも今年はご利益があるかもしれない。
岩手に「蛇」の文字を冠した山が二つ。洋野町大野の「蛇石山」は、久慈平岳の1㎞南に連なるミニピークで、大蛇に見立てた巨岩が山頂周辺に点在している。確かに、斜めに突き出た大岩が鎌首に似ていないわけではない。
いつぞや、太くて長いアオダイショウのすご技を見たことがあった。脇腹に小枝をあてがってはくねり、次いで逆へくねり返す。このわずかな接触を尾までつなげれば、地を這わずともヘビは空気を射抜くように泳ぐ。
あれは夏油温泉の石華洞でのこと、森の主らしき立派なヤマカガシが私の気配を察してスローに振りかえった。「なに者だ。吾に近づくな!」と断じ、苔むす樹下へゆうゆうと滑りこんだ。動物の全身は言葉である。信じられないかもしれないが、私はヘビの威厳にすっかり圧倒された。
住田町世田米には標高750mの「蛇山」がある。山全体がとぐろを巻くヘビの形に似ていることから「蛇山」と命名。近くに鷹ノ巣山や大ワシ沢渓谷があるので、一帯はヘビや蛙・ネズミを捕食する猛禽類の別天地だったに違いない。牛を放牧した蛇山牧場は数年前に閉鎖し、今は家畜用の採草地として活用されている。
山で大きなヘビに出くわしたら、敬遠せずにジッとご覧あれ。無駄のないスレンダーボディーのなせる技に、アッと息を呑む。ヘビは苦手だが「幸せよぶニョロリ」に何処かで遭遇したいものだ。