【大六山 (だいろくやま) 514.8m】「ヤブ山」 やったー

【大六山 (だいろくやま) 514.8m】「ヤブ山」 やったー

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 ルートのない斜面や尾根を登り、時にはヤブをこがねばならないことがある。枝に叩かれ、ズボンはカギ裂き、最悪だとメガネがすっ飛ぶ。ヤブが好きというわけではないけれど、山頂を踏むためには致し方ないときがある。それだけに達成感が深いし、大声で「ヤブ山ヤッタ~」と叫びたくなる。

 大船渡市三陸町に鬼の山と伝承される「大六山」がある。北の吉浜湾と南の越喜来湾を分ける半島の中央にあって、登山路もなければ看板もない。だが、ササや低木が薄く、晩秋から初冬にかけて明るい大六山は、チャレンジしやすいヤブ山の1つだろう。

 登るヒントは4つ。① 登り口は羅生峠、三差路で潮風トレイルの青い椅子がある。② 峠を下らず作業道へ進む。③ 電波塔の裏の尾根に取りつき381mの矢筈山へ。④ アップダウンを数回くり返しながら三角点のある山頂に到達する。その後、周回する場合は南の尾根を回りこんで西の林道へ下る。

 桓武天皇の時代、蝦夷地に住む土着の民は、朝廷にまつろわぬ民とさげすまれ、「鬼」と呼ばれた。伝承によると、大船渡の猪川に赤頭、陸前高田の熊井、小友に早虎という名の首領が統率していたそうだが、征夷大将軍の坂上田村麻呂によって退治された。

 鬼が峠を越えて逃げた場所が越鬼来。鬼と喜をリンクさせて「鬼が喜んで来た」と変化。鬼の体はバラバラに流れ、各地に足跡を残した。例えば、鬼間ヶ崎・脚崎・鬼越・鬼沢・死骨崎・首崎、そして羅生峠は夜叉柄杓が生える所だ。黒沢明監督の映画「羅生門」は、平安時代の荒廃した世情をもって、人間の善悪や生への執着を余すところなく表現。そもそも真相は「藪の中」と、芥川龍之介はことの本質を突いた。

「あれだ!」。奥の頂きは「六」以外の何ものでもない。大六山は吉浜駅近くで直感的に判別できた。

大六山 (だいろくやま) 514.8m
右の稜線をたどって左奥の頂へと登りつめる。吉浜から見上げ、大きな「六」と読んだ

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