中国の伝説で、東海中にあって仙人がすむ地とされる「蓬莱山」は、人にはできないことをする不思議な力をもった霊山である。秦を統一した始皇帝は不老不死の妙薬を所望したが、願い叶わず紀元前210年に49歳で亡くなる。いま生きていれば齢2235歳だった。だが皮肉なことに始皇帝は死してなお、善行も悪行も歴史の中で生き続けている。
岩手では奥州市と一関市の境に「蓬莱山」がある。国道456号より県道262号に入り、みちのく池田記念墓地公園を通りすぎて田原峠まであがり、峠から牧草のなだらかな農道を5km、電波塔の立つ山頂を目指して南下する。西方の彼方に奥羽の銀嶺が、屏風のように連なって光彩を放つ。すぐ北に穏やかな阿原山と天狗岩山が見え、さらに室根山、五葉山、種山ヶ原や束稲山など一等三角点の頂が蓬莱山をぐるりと囲む。「さぁ、大岩に腰掛けて大展望をごらんなさい、きっと寿命が延びますよ」と仙女が笑った。

尾根路は、私の好きな三角点ロードだ。田原峠からスタートした場合、652.2mの草むらに三等三角点が隠れているので見逃さないこと。754.7mの立石は四等。さらに南進し、鳥居をくぐって大岩の旭巌神社を参拝したら、ササを漕いで787mの山頂へ向かう。電波塔の広場に蓬莱山の二等三角点が設置されている。
積雪期は田原峠へ車が上がれないので、墓地公園入口の手前で右折し、電波塔の管理道をスノーシューやワカンで登る。ただし尾根に上がるまで展望はない。
先日、もりおか歴史文化館で狩野林泉が描いた蓬莱図屏風を観た。江戸の人々が憧れた仙境は「竹林に松と梅、流水に亀、鶴が舞う」。
永遠の命を熱望した始皇帝が愛飲し続けた秘薬とは——信じがたいことに、毒性があることで知られる「水銀」だったといわれる。
