イッセー尾形さんにインタビュー

イッセー尾形さんにインタビュー

特別インタビュー
俳優 イッセー尾形さん 特別インタビュー
イッセー尾形さん
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 一人芝居という独自のスタイルを確立し、演劇界で唯一無二の存在感を放つイッセー尾形さん。その作品は、人間を深く、そしてユーモラスに描き出し、観客の心に深く響きます。10月4日、5日に盛岡劇場メインホールで開催される「イッセー尾形の右往沙翁劇場 番外編 銀河鉄道に乗って」のPRのため、シニアポケットの特別インタビューに応じてくださいました。

 演劇を始めたきっかけから、作品に対する思いについて、じっくりと語っていただきました。

 

-盛岡にどんな印象をお持ちですか

「口下手、だけどオシャレ。もっと洗練すると、きっと盛岡の良さがなくなる。だから盛岡のことを見守っています。盛岡の良さを、盛岡以外の人は語ると思うんですよ。でも、盛岡の人にはそれが行き渡らない。その歯がゆい隙間が魅力的。洗練されすぎるとコマーシャリズムになっちゃうから、盛岡はそれにのらない魅力があります。現代だけどレトロみたいなね、ところがありますよ。」

 

-どんな少年時代を過ごされましたか

「小学校3年生から東京で、もうテレビにかぶりつきでしたね。コンバットとか、牧場ものとか。そういう世代ですよ。外では戦争ごっこ、牧場ごっこ。勉強する暇がない。いい時代でしたよね。漫画はちばてつやさん、横山光輝さんが好きで、将来は漫画家になりたかったですね。でも漫画家で何が辛いかってコマが変わっても同じ顔を何回も描かなきゃいけない。あれが嫌でしたね。だからイラストレーターの方がまだいいんじゃないかって」

 

ーイッセーさんが役者を志したきっかけについて教えてください。

「それは一つ、スポーツマンとしての挫折がありました。水泳もサッカーも、何でもやりましたが、勝ち負けがどうも向いていないんですよ。パフォーマンス能力には自信があったんですが、勝負になると違う。じゃあ何をすればいいのかと考えた時に、役者という仕事はパフォーマンスが必要だけど、勝負じゃない。勝ち負けがない。そう気付いて、これだ、と」

 役者として活動し始めた頃、師匠から受けた教えが、イッセーさんのその後の道を決めることになったそう。

「師匠から『自分で書きなさい。自分で演出しなさい。自分を出しなさい。相手役も自分で決めなさい。全部自分でやりなさい』と。その教えの延長線上に、今の一人芝居があるんです。役者というよりは『動く彫刻』、『歩く俳句』のようなものだと思っています。単なる役者というのは、人を模倣する仕事でしょう。そうじゃなくて、その人を創り出す仕事。自分が受信地であり、発信地であり、表現そのものである、と。アートなんです」

 イッセーさんが表現してきたのは、誰もが持つ「滑稽さ」や「おかしみ」。その人物を創り出す過程で、新しい発想や言葉を探すことが楽しいのだと語ります。

「これまで作ってきた人物像は本当に数えきれないほどですが、やってもやっても終わりがない。だって人間は80億人もいますからね(笑)」

 

ー今回の盛岡公演では、宮澤賢治をテーマに、短編小説「人情列車」とは異なるライブバージョンを披露されるとのことですね。

「宮澤賢治がバックボーンにあると、私の表現はもっと自由になれるような気がするんです。人間はここまで自由なんだということを、舞台を通して伝えなきゃいけない。賢治の世界のおかげで、自由さの度合いが段違いになりましたね。『銀河鉄道の夜』が好きなんですが、あの作品には、ファンタスティックなロマンがある一方で、人間が死んでいくという大きなテーマも入っている。行き着く先は死ぬことしかないんだけれども、それに至るまでの時間は無限に過ごせる。そんな可能性がすごく含まれている気がします」

ー観客との関係性について、どのように感じていますか。

「舞台はコミュニケーションですね。発信し、受け手がいて、その受け手が今度は発信者になる。そのキャッチボールがないと、舞台は生き生きとしませんから。世の中には時代に乗っていく人と、時代から外れていく人がいるでしょう。いまはとりわけ窮屈な時代です。私は、時代から外れていく人たちを演じたい。そうすると、お客さんの中にも、時代から外れた人たちがいる。そういう人たちがシンパシーを感じて、感想を書いてくれたりすると、それが何より嬉しいんです。全員に届けるわけじゃなくて、届くべき人に届いている、それが一番大切なんです」

 かつては舞台上で「攻めていた」というイッセーさんですが、現在は「待つ」ことを意識しているといいます。

「引いた方が、お客さんが流れ込んできてくれるんですよ。押さないで。この感覚は、海外公演を経験して真っ先に感じたことでしたね。同じ舞台は二度とありませんから。その日、その場所でしか生まれない空気を大切にしています。劇場に色々と教えてもらったんだろうなと思います。『一期一会だよ』と」

 

ー多くのシニア世代の方々が、イッセーさんのご活躍を励みにされていると思います。何かメッセージはありますか。

「私もシニアですけど、肉体的なシニア度は高まっています。ただ、頭の中の脳内度は、別にシニア度が高まってるとは思っていないですね。周りの人たちがサポートしてくれるおかげで、今の自分がいる。だから、シニアがシニアでいられるのは、周りの人のおかげだと思っています。感謝ですね。健康維持のためには日頃から歩くことを意識しています。あとはピラティスなんかも。体幹は大事ですよ。お酒は飲みません。シニアの皆さん、お酒はやめましょう(笑)」

 

ーシニアの皆さんに公演の見どころをお願いします。

「私の舞台を見ると、説教したくなくなります。説教がましい人物が出てきて、『自分はそうなるのはやめよう』って思うような、反面教師になると思いますよ(笑)」

10月4日、5日に盛岡劇場メインホールで開催 「イッセー尾形の右往沙翁劇場 番外編 銀河鉄道に乗って」

詳しくはこちらからどうぞ!↓
https://seniorsnet.jp/article/event_issey-ogata-_2509/

10月4日、5日に盛岡劇場メインホールで開催 「イッセー尾形の右往沙翁劇場 番外編 銀河鉄道に乗って」

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プロフィール

1952年、福岡県生まれ。 71年に演劇活動を開始し、81年「お笑いスター誕生」で金賞を受賞。以降、日常の人物を軽妙かつ繊細に描き分ける独自の一人芝居スタイルを確立し、代表作「都市生活カタログ」シリーズで知られる。 「日本における一人芝居の第一人者」として国内外で高く評価され、欧米・アジア各国での公演も多数。映画では山田洋次監督作品や是枝裕和監督作品に加え、マーティン・スコセッシ監督「沈黙-サイレンスー」(2016)に出演し、ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞次点を受賞。ほか受賞歴は紀伊國屋演劇賞、芸術選奨文部科学大臣賞など。

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