● アーチェリーに魅了された熱き若者たち
オリンピック種目としても注目度が高いアーチェリー。全国的に認知度が高まるまでに長い年月と労力がかかったと話すのはアーチェリー普及に尽力してきた東北アーチェリー連盟名誉会長の高橋克宏さん。
高橋さんがアーチェリーと出会ったのは、短期大学に入学した頃。アーチェリーが52年ぶりにオリンピック種目になり注目された時代だったそう。「新しいスポーツをやりたいと探していたとき、スポーツ店で初めて原色の弓を偶然見かけ、なんてモダンなスポーツなんだと感銘を受け、同じく興味をもった仲間を集めクラブを作りました」と高橋さん。部員同士で切磋琢磨しているうちに後輩も入部。次第に大会で練習の成果を試したいという声が上がるようになります。しかし、大会出場には岩手県体育協会に入る必要があり、県のアーチェリー協会を探したところ、存在しないことがわかり、「それなら自分たちで作ろう」と立ち上がります。
まずは全日本アーチェリー連盟に連絡した高橋さんたち。すると設立総会を開き協会を設立してほしいと連盟からアドバイスが返ってきました。総会を行うため、共に活動してくれる仲間を増やし動き出しますが会長を誰にするかという大きな課題が立ち塞がります。「20代の若者だけでは加盟できないと考え、当時の県体育協会の藤原理事長にお願いすることになりました。しかし県議会議員や要職を兼務されてお忙しい方なので会うのも容易ではありませんでした」。
それでも知人に頼み、なんとか面会を果たしますが忙しいからと会長就任を断られたそう。「諦められずアーチェリーの今後の発展のためにと粘り続けました。最後には熱意が伝わり承諾してもらい、協会運営を1年きちんとやれば体育協会へも歓迎するとも言ってもらいました」と協会設立のための大きな一歩を踏み出します。それからは広報活動や必要な物の手配、会場設営など目まぐるしい日々を過ごします。
そして迎えた設立総会当日、遠方から都道府県協会の理事長や世界大会に出場した選手が盛岡にやって来ました。総会では藤原会長への弓渡し式が行われ、岩手公園には100人ほどが集まりアーチェリーの模範演技と公開教室が行われました。選手の矢が50m先の的に当たる様子を見て多くの人が拍手喝采、岩手県アーチェリー協会が発足し多くの人にアーチェリーの魅力が伝わった1日となりました。
● アーチェリーの普及のために邁進
岩手県アーチェリー協会を設立後、普及活動を開始した高橋さんたち。練習もこなしながら大会運営を行えるよう競技運営のノウハウも学び、翌年には念願だった岩手県体育協会に加盟。数カ月後に開催された第一回岩手県アーチェリー選手権大会に出場、大会運営も行います。「まだ競技人口が少なくアーチェリーを普及させていかなくてはと思い、他県で大会運営や教室を開くなど普及活動を続けました」。その努力が実を結び始めアーチェリーを始める人が徐々に増加。安全に練習してほしいと紹介された荒地を射場にするため整備を行ったこともありました。「大木を切ったり、大きな岩を動かしたり休みの日にみんなでコースを作りました。たくさんの人に協力してもらい先輩や仲間に恵まれていると感じました」とその奮闘ぶりが認められアーチェリー全日本連盟から東北連盟の理事を任された高橋さん。「協会がない宮城や秋田、山形に行って大会運営や教室を開き、協会も設立させました。資材一式を載せて旅芸人一座のように奔走して大変でした」と振り返ります。
そんな高橋さんの今後の目標を聞くと「考案したノルディックウオークアーチェリーを新しい生涯スポーツとして広めたいです。60、70代でアーチェリーを始める方も多く、年齢に応じた弓もあるのでシニア世代にも合うと思います。ポールをつきながらウオーキングしてアーチェリーを楽しむので魅力を伝えたいです。森の中で行うフィールドアーチェリーも人気で、自然に癒されながらみんなで楽しんでます」と高橋さん。的に向かい放たれた矢のように、目標に向かい進み続けていきます。