● 地域に愛される“信金マン”
全国に253ある信用金庫のなかで5番目に歴史が長い盛岡信用金庫。明治36年創業以来、118年間地域に親しまれてきた「もりしん」に平成30年、理事長に就任したのが浅沼晃さんです。
地域に根ざし、地域と共に発展する「共存同栄」の精神のもと業種の異なるお客さんを結ぶビジネスマッチングや全国の信用金庫と連携した販路拡大支援、自治体との起業支援や事業再生など地域のお客さんのため心血を注いでいます。
地域経済を支えるには“まずはお客さまが抱えている悩みを相談してもらいたい”と思い「金融機関は敷居が高いとイメージされがちなので職員には近所の話しやすい親戚のような存在“信金マン”になって、地域の皆さまに頼られる地域の味方になってもらうのが理想だ」と言います。そして“信金マン”を育てるためにさまざまな取り組みを始めています。
まず職員の皆さんを知るため年に一回、店舗を個別に訪問する「職場訪問」を始めました。テーマを決めてディスカッションをする場を設け職員全員から話をしてもらっています。名前や顔だけでなく一人ひとりの人柄や考え方を知る良い機会になっているそう。
また、こんな人になってほしい、世の中こうなっているが自分はこう思うなど自身の考えや思い、経験などを伝える理事長通信を毎月発信。「店舗に出向いたとき『楽しみに読んでいます』や『欠点を直そうと思いました』などと言われます。毎回反響はありますが特に印象に残っているのは『職員は金庫の道具ではありません。お客さまも一番大事ですが私にとってもっと大事なのが職員です』と書いたとき。職員からそんなに思ってくれていたなんてと、とても反響が大きく驚きました」と職員の皆さんの熱意を感じ、地域のために働く“信金マン”たちがより一層、安心して働けるようにしたいと気持ちを新たにしたそうです。
職員を守り育てることがその先にいる地域のお客さんを守ることになると考える浅沼さんは長年の懸案事項であった数十億円の不良債権を一気に処理することを決断、平成30年度の決算で大きな赤字を出しました。たとえ過去最大の赤字を出した理事長と言われても必要なことだったと言います。「処理しきれなくなる前に解決しなくてはと、覚悟を決めました。一方で多額の赤字を出せば職員のモチベーションが下がり仕事に支障が出ると思い、先行投資と考え賞与は例年以上に支給しました。『ありがとうございます』とお礼も言ってくれたので、きっとそれに見合った仕事をしてくれるはずだと信じていました。翌年、業績はV字回復し過去にないくらい利益を上げることができました」と赤字でも人件費を削らない決断が良い結果を生んだと言います。
● お客さんの人生に寄り添う
ここまで“お客さんのため”と考えるようになったのは浅沼さん自身の若いころの経験があったからでした。
盛岡信用金庫に入庫し、最初に配属された紫波支店で集金や商品提案をする渉外係を担当することになった浅沼さん。当時はパソコンはなく電卓さえも高価な時代。そろばんを使い、書類はすべて手書きで、帰りが遅くなるのは当たり前でした。「限られた時間のなかで約束の時間を守りながら多くのお客さまを訪問する方法を考えました。要領よくわかりやすい説明を心がけ、お客さまのためになるよう最大限の努力をしました」と工夫を重ねながらたくさんのお客さんと話すうちに「お客さまは誰でも人に言えない悩みや課題を持っている。それを一緒に解決していくのが自分たちの仕事なのではと感じ始めました。なかには夢を抱いて起業した方も多く、販路の開拓や税金のことなど自分に相談してもらうため信頼される人間にならなくてはと思いました。どんな相談にもスピード感を持って対応し、いつでも答えが出せるよう勉強もたくさんしました」とどんな小さなことでも努力を積み重ね切磋琢磨した浅沼さん。その心がけを続けたことで、どこへ転勤しても地元の人から厚い信頼を寄せられました。親しくなったお客さんから釣りも教わるなど仕事の垣根を越えて親交が深まったお客さんもいたそうです。
「人間性が地域を作る」と実感した浅沼さん。貫いた「共存同栄」の精神は今ともに働く職員の皆さんへと引き継がれていきます。
平成30年森林環境保全運動の様子。地元の支援事業の一環で職員とその家族が参加し、世代間の隔たりなく協力し合い森林整備に励みます