八幡平の鉄人救助隊

八幡平の鉄人救助隊

インタビュー
八幡平遭難対策委員会捜索救助隊 隊長 田中 耕一さん
八幡平遭難対策委員会捜索救助隊 隊長
田中 耕一さん
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● 山からの救助要請に24時間いつでも出動

 毎年7月1日に岩手山の山開きが行われると、夏山シーズンも本番。見渡す限りの絶景や可憐な山野草など、爽やかな夏の山歩きは発見と感動の連続です。しかし、天気の急変やケガ、熊やハチに襲われるなど思わぬ危険も伴います。万が一の場合、警察か消防に救助を求めますが、時間帯や天候によっては対応してもらえないことがあります。

「夜間でも吹雪でも、要請があれば24時間体制で救助に向かいます」と話すのは、八幡平遭難対策委員会捜索救助隊(以下、八遭隊)隊長の田中耕一さん。富士登山競争の優勝者やトレイルランニングの東北チャンピオンなど20代から60代まで約20人の山の猛者が在籍する八遭隊は、八幡平市周辺をエリアに活動する山岳救助隊です。要救助者またはご家族などから要請があればいつでも出動し、一刻を争う遭難者の救助に当たります。救助活動は本業を休んで行うため、人数・日数に応じて綿密な計画が必要になるとか。

● 過酷な訓練で山の事故に備える

 数年前、冬の岩手山で滑落したと警察に救助要請がありました。しかし、真冬の岩手山に警察は入ることができず、ご家族の要請で八遭隊が救助に向かうことに。

「夜から山に入り、時間と闘いながら要救助者を探しました。凍死の危険もあるなかでしたが、なんとか骨折した遭難者を発見できたので、応急処置をして日の出を待ちました。防災ヘリが到着し、救助者を無事に吊り上げてもらった瞬間はやったなと感動しました」と振り返ります。

 そんな、八遭隊は毎年秋と冬に厳しい訓練を行っているといいます。「遭難者の状況や心理を体感すると同時に、隊員本人の二次遭難を防ぐ目的で行う、冬山での1泊2日のかなり厳しい訓練です」と田中隊長。警察・消防の救助隊、防災航空隊とも合同で行い、情報交換しながら遭難救助技術を磨いているとか。

 時間があれば山に入り、コースの点検や危険箇所をチェックし、八幡平市の観光協会に情報提供をしている田中隊長。「一番は救助者が出ないこと。無理せず、安心、安全な登山を心がけてください」と熱いハートと高度な技術で山の安全を守り続けます。

八遭隊の田中隊長に聞く
【 登山の注意点 】

これからの季節、Tシャツ1枚で登山に出かけると…真夏でも涼しい山頂付近では、低体温症で動けなくなる危険も。山を知り尽くした田中隊長に、登山の持ち物や注意点についてお聞きしました。

 ここからは、登山のポイントを何個か紹介したいと思います。田中隊長はいつも水、サイダー、スポーツドリンクを持っていくそうです。水は飲用のほかキズを洗うこともでき、炭酸と糖分を含むサイダーは血流を良くし疲れを取る効果があります。行動食はエネルギーに変換されるまでに時間差がありますので、こまめに小腹が空く前に食べましょう。

 山頂付近は真夏でも10℃以下になることもあり、汗が冷えると筋肉が硬直し疲労凍死の危険があります。最低でも雨除け風除けにカッパは必ず持ちましょう。ポイントは寒くなる前にきて、暑くなる前に脱ぐ。汗が出てから脱ぐのでは冷えの原因になってしまいます。

 遭難した際の豆知識として、防災ヘリに現在地を知らせるには、日中でもスマホのライトが役立ちます。他にもスマホアプリの地図は事前ダウンロード。虫除けにはハッカ油がいいとか。

 なんでも起こる前の行動が大切なんですね。体調を整え事前準備を行い、安全な登山を楽しんでください。

岩手県に生息する虫の記録をまとめて県立博物館に寄贈する予定
岩手県に生息する虫の記録をまとめて県立博物館に寄贈する予定

プロフィール

1961年生まれ、八幡平市出身。岩手県立平舘高等学校山岳部で登山と出会う。19歳で翌檜(あすなろ)山岳会に入会、22歳で八幡平遭難対策委員会捜索救助隊に入隊、2017年から隊長を務める。前隊長の髙橋時夫さんご夫婦を仲人に、岩手山山頂で結婚式を挙行。本業は、田中電気商会を営む町の電気屋さん

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