● 人生を左右する図鑑との出会い
標本箱に整然と並ぶ、サイズも色彩もさまざまな昆虫。数万点におよぶ虫の標本を整理するのは、伊達生物調査事務所・所長の伊達功さん。企業が事業を始める際に、事業がどのように環境に影響を及ぼすかについて調査を行っています。企業は調査の結果を元に最小限の影響で事業を行えるとか。
幼少期より、カブトムシよりカミキリムシが好きだったという伊達さん。小学6年生の時に買ってもらった『原色日本昆虫生態図鑑Ⅰカミキリ編』が、人生に大きな影響を与えました。「大人向けの専門書で内容はほとんど分からないんだけど、写真を見てこんなのがいるなら、捕まえてみたいと思った」と伊達さん。自分で捕った虫と図鑑を照らし合わせ、いつか全種類捕まえたいと胸を躍らせたといいます。
中学では科学クラブに入部し、本格的に昆虫の採集や観察を始めました。「虫好きの先生が『岩手県の早池峰山に採集に行った』と言っていたのが強く頭に残っていて、岩手の大学を選びました」と話す伊達さん。大学では、大好きなカミキリムシが原因となる松食い虫の分布予測の研究に没頭。卒業後は都市計画、環境調査の会社を経て、2005年に伊達生物調査事務所を設立し現在に至ります。
● 岩手にすむ虫たちと 自然環境を未来へ
1934年発足の「盛中(岩手県立盛岡第一高等学校)博物同好會」を前身とする「岩手虫の会」に所属する伊達さん。子どもたちに虫を好きになってもらおうと「ジュニア会」を立ち上げ、観察会や自然体験会を行っています。「ミチノクケマダラカミキリのように、岩手にしか生息していない虫もいます」と伊達さん。岩手は虫の宝庫なので、虫に触れて興味を持って、豊富な虫が生息する岩手の環境を子どもたちが「宝」として感じてくれれば嬉しいと話します。
現在、伊達さんが最も力を注いでいるのは、岩手県に生息するカミキリムシの採集を全種類制覇すること。「全部で約260種類いますが、残り10種類ほどで達成です」と目を輝かせます。さらに「虫仲間から珍しい虫を捕ったよと連絡が入ると、悔しくて自分も捕りたくなる」と続ける伊達さん。仲間の存在が刺激になり、虫への情熱が薄れることはないといいます。
虫仲間の中には、退職後に虫の観察を始めた方もいるとのこと。スマホやデジカメ片手に、近所をゆっくり歩きながら目に留まった虫を撮影して、インターネットや図鑑で調べるだけでもワクワクします。子どもの頃を思い出して、大人の虫捕りを始めてみませんか。