また会えると信じて

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インタビュー
上智大学グリーフケア研究所 名誉所長 日本スピリチュアルケア学会 理事長 髙木 慶子さん
上智大学グリーフケア研究所 名誉所長 日本スピリチュアルケア学会 理事長
髙木 慶子さん
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最期の瞬間をどう迎えるか

 現在の医療では治らない病気で余命宣告された方が、最期の時まで心身共に穏やかに過ごせるよう手助けする「ターミナルケア」。医療的ケアと合わせ、不安や絶望を緩和する精神的ケアが大きな役割を担っています。
「エリザベス女王のように96歳で亡くなる方もいれば幼くして逝く方も。年齢を問わず余命6カ月以内のターミナル期にある方のケアを『ターミナルケア』といいます」と話すのは、上智大学グリーフケア研究所名誉所長の高木慶子さん。これまで36年間に渡り「死」と向き合う方々に寄り添い続けてきました。
「姉が吐血して病院に運ばれた時、余命3カ月と宣告されパニックになりました」と髙木さん。何を聞いても耳に入ってこない状況からインフォームドコンセントを経て現実を理解し、どこでどのように最期を迎えるか家族で話し合いました。
「姉は治療はせずホスピスで最期を迎えたいと。自分で考え選択したので、姉らしい最期だったのではないか」といいます。髙木さんがケアした方の中には、余命宣告から2年3年とご存命の方も少なくありません。医療は日々進歩しているので、決して悲観的にならないようにと話します。

見守る私たちにできることは

 大切な人が「死」に直面し苦しんでいる時、私たちはどんなサポートができるのでしょうか。髙木さんがあるご夫婦をケアした時の話です。その方は数年前にお子さんを亡くし大きな喪失感に苦しんでいました。そんな中、奥さまががんを患いターミナル期に入りました。「残していくご主人ともう一人のお子さんのことは心配だったでしょうが、先に亡くなったあの子に会えると言って旅立ちました」と髙木さん。「あいつは喜んで逝ったけれど俺のことはどうしてくれるんだ」とご主人が怒りをぶつけるほど、奥さまは希望と共に旅立ったといいます。「寂しさが怒りとして噴き出ているけれど、ご主人の心には自分が逝く時には奥さまと子どもに会えるという気持ちが芽生えてホッとしていると思う」と話す髙木さん。亡くなって無になるのではなく「向こうでまた会える」という再会の希望が、逝く人と送る人の心をつないでいるといいます。

 また、ターミナル期の方が亡くなった家族や知人に会う「お迎え現象」について話す髙木さん。両親や配偶者、中には愛犬が会いに来たという事例も。死を前にした方が普通では考えられないような現象を見ることは良くあることなので「何を言っているの」と否定しないで「あら良かったね」と受け入れてほしいといいます。向こうで待っていてくれる人がいる、それだけで「死」への不安は軽くなるといいます。

ターミナルケアがなぜ必要なのか

「私がターミナルケアをお手伝いするのは、亡くなる方が心穏やかに旅立てるように、そしてその方が亡くなった後にご遺族が心安らかにいてほしいからです」と髙木さん。配偶者、子ども、兄弟など大切な人との別れは大きな悲嘆を残します。そのつらさを最小限に抑えるためには、再会できるという希望が必要だといいます。「亡くなる方が『向こうで待ってるよ』という言葉を残すことが、遺族に対する一番の安心と平安につながります」と髙木さん。例えば「死にたくない」という言葉を残して亡くなった方のご遺族はどんなにつらいか。何年経っても苦しんでいるのではないかと心配し続けます。反対に「本当にありがとう」「いろいろあったけどごめんなさい」「向こうで待っているよ」と安らかに亡くなった方のご遺族は「また会える」と穏やかな気持ちで見送ることができます。姿は見えなくても、ずっと見守ってくれると思うことで遺族の悲しみは和らぐといいます。

「誰でもいずれは死ぬのよ」と話す髙木さん。古くからお正月やお盆にはご先祖さまを迎える風習があり、日本人の意識には漠然と「向こうの世界」が存在しています。「ありがとう」「ごめんね」「待っているよ」と伝えて旅立つことができたら、亡くなった後も最愛の人と安らかにつながっていられるのではないでしょうか。

2022年9月9日に大船渡市長より感謝状をいただいた時の写真

2022年9月9日に大船渡市長より感謝状をいただいた時の写真

プロフィール

1936年、熊本県出身。中学2年生で修道女になることを決意。聖心女子大学卒業後、煉獄援助修道会へ。曽祖父は、浦上キリシタンの中心人物・髙木仙右衛門氏。キリシタン弾圧を題材にした『沈黙』の筆者・遠藤周作氏との交流から、人間への理解や哀れみなど思想に影響を受ける。政経塾「コスモス会」、教育相談所など幅広い活動を経て、30年以上ターミナルケア、グリーフケアに携わる。東日本大震災直後から、被災地訪問を続けている

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