昭和の活気を取り戻す

昭和の活気を取り戻す

インタビュー
インタビュー 盛岡神子田朝市組合長理事 吉田晃さん
盛岡神子田朝市 組合長理事
吉田 晃 さん
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● 半世紀の歴史を刻む盛岡神子田朝市

 早朝5時、朝採りの野菜や海産物、お惣菜などがずらりと並ぶ「盛岡神子田朝市」。週末には、千人を超える人々が県内外から足を運びます。年間300日以上営業する朝市は、全国でも神子田だけとのこと。「おいしいもの食べてってね」と気さくに声をかけるのは組合長理事の吉田晃さん。「朝市に来ると会話が楽しくて元気になる」と出店者もお客さんも笑顔で話します。ネット通販やセルフレジなど非対面の消費活動が日常化する中、ここには言葉を交わしながら買い物を楽しむ、昔ながらの風景が残っています。

 果樹農家の長男に生まれた吉田さんは、子どもの頃から「朝市」に出店する祖母の手伝いをしてきました。「子ども、孫がお客さんにお釣りを渡したりね。昔はみんなそれが当たり前でした」と吉田さん。「夏休みには自分で捕まえたカブトムシを売ったり、朝からラーメンを食べたり、とにかく朝市に来るのが楽しみでしたよ」と笑顔をみせます。 「神子田の前は、南大通でやっていたんですよ」と吉田さん。しかし、1968年に盛岡市津志田に「盛岡市中央卸売市場」が開場し、南大通にあった「盛岡中央青果」外郭の直売所は閉鎖に。「うちも含めて農家は売る場所を失ったわけです。当時527名の農家で『盛岡地区生産者立売組合』を作り、南大通の『セブンイレブン』のあたりで朝市を始めたと聞いています」。農作物をのせたリヤカーの脇に立って売る「朝市」は大勢の客でにぎわい、より広い場所を求めて1977年に神子田に移転しました。「当時の組合長や理事がお金を出し合って、神子田に朝市を作ったそうです」と話します。

「朝市」誕生から約50年が経ち、527名いた組合員は2020年には106名まで減少。「高齢化で農家の数が減り続け、そこに感染症の流行が重なって、朝市は潰れると思われていたでしょうね」と吉田さん。出店者も来客数も減り、空きスペースが目立つ状況に…組合は世代交代を進め、70〜80代が中心だった理事を50代中心に刷新したといいます。思いもよらず組合長に抜てきされた吉田さん。若い理事たちと集まり、話をした時に意見が一致したのは昔のような朝市に戻したいという思いでした。意思を固め、やってやるとスタートを切ったといいます。しかし、若い組合長を受け入れられない出店者も多く、挨拶をしても返ってこない日々が続きました。

● ピンチを逆手に 期待以上のV字回復

「経験もない若造に何ができるんだという厳しい視線は感じましたが、昔の活気ある朝市を取り戻したいとがんばりました」と吉田さん。この熱意に賛同する会員も少しずつ増え、同じ志のもと「朝市」の立て直しが動き出しました。そんな矢先、新型コロナウイルスの影響で全国的にイベントが中止になっていきます。朝市も決断を迫られる中、吉田さんは十分な感染対策の上での営業を決断しました。「そしたら、休業する店が多かったこともあり、連日二千人以上の方が足を運んでくれたんです。コロナ前の約2倍の来客で盆と正月が一緒に来たような不思議な状況でした」と状況が変わっていったと話します。

 このにぎわいを継続するためには空きスペースを埋めなければならないと、地元テレビ局の番組に組合長自ら出演し「今の朝市にはないようなお店に来てほしい」と出店者を募集。「放送後、問い合わせが殺到して呉服店、美容室、マッサージ、リフォーム、スイーツと次々と店が増えていきました」。現在は、組合員数も約150名まで増加し、コロナ禍にも関わらず売上も来客数も大幅アップのV字回復を遂げました。「2年目くらいから出店者の方から感謝の言葉をいただくようになり、少しは認めてもらえたのかな」と吉田さん。出店者の笑顔を見ると「今日も朝市は元気だな」と嬉しくなるといいます。

 子どもの頃、上野の「アメ横」に行った時の記憶が鮮明に残っているという吉田さん。ごった返す人、ジャンルを問わない豊富な店、そして活気。「神子田の朝市は、煙突から煙が出て、昭和にタイムスリップしたような雰囲気がいいんですよ。この昭和感を残しつつ、アメ横のような活気ある朝市にすることが私の夢」と話します。昭和の風景の中に今どきのスイーツが並び、ギャップを楽しむ若者や家族連れ、海外からのお客さんも増えているとのこと。「盛岡の台所」として長年親しまれてきた「盛岡神子田朝市」は観光地としても注目され、世代を超えて交流できる場所に進化しています。顔を合わせて会話する機会が減った今だからこそ、早起きをして人の温もりあふれる「朝市」に足を運んでみてはいかがでしょう。

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プロフィール

1970年、盛岡市生まれ。岩手県立盛岡農業高等学校卒業後、岩手県園芸試験場(現:岩手県農業研究センター)研修生、民間企業での営業職を経て25歳から家業の農業に従事。2020年3月「盛岡地区生産者立売組合」組合長に就任、2024年3月「盛岡神子田朝市」に名称変更し組合長理事に就任。30年以上続く趣味は、中央競馬のレース予想。座右の銘は「継続は力なり」

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