医療の未来を育てる

医療の未来を育てる

インタビュー
インタビュー 岩手医科大学 学長 小笠原邦昭さん
岩手医科大学 学長
小笠原 邦昭 さん
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● 患者さんを中心にチーム医療を学ぶ

 広大なキャンパス内に医学・歯学・薬学・看護学の4学部を有し、学部の垣根を越えた独自のカリキュラムで総合的な医療人を育成する岩手医科大学。同大学の前身である「医学講習所」の設立と同時に「産婆看護婦養成所」を開設するなど、創立当初から「他職種連携」の考えのもと医療人を育ててきました。「学生時代からそれぞれの役割を理解し、互いに尊敬し合える環境で学ぶことが大切です」と学長の小笠原邦昭さんは話します。

 医療を学ぶ学生に求められるのは「生涯学び続けるという意思」と「自分で考える力」だと話す小笠原学長。「当然のことですが、学生にとって岩手医大に入ることは手段であって目的ではない。患者さんのために良い医療人になることを目的に入学したのだから、勉強するのは当然のこと。医療人とは、生涯学び続ける仕事だということを入学したばかりの学生に話します」。医療の道を志した時の「初心」を忘れず、患者さんのために日々の努力を怠らない医療人を育てたいと話します。

 優れた医療人を育てるために、小笠原学長は学内を回診し情報収集を行っています。「病院で患者さんを診るのと一緒で、大学では各学部を訪問し現場の状況を把握します。突然行ってウロウロするから、邪魔だと思われているでしょうね」と笑います。常に現場と乖離が起こっていると想定し、正しい情報を集め、その情報に基づいて仕事をすることが大事だと話す小笠原学長。「病院長の時に岩手医大附属病院に『投書箱』を設けたように大学でも『学長投書』を始め、直接私に投書できるようにしました。批判や疑問などさまざまな声に私が回答して公表し、現場との乖離を最小限にしたい」と話します。現場を把握し情報を共有し、学内の意思疎通を図りながら、さまざまな立場の人がフラットに関わり合う学びの環境を整えています。

●岩手で学び、研究したくなる魅力を

 岩手医科大学では、医療人を育てるだけでなく地域医療を支えるという大きな役割を担っています。「岩手医大に在籍する約500名の医師のうち約150名が、毎日交代で病院外に出て外来や当直に当たり地域の医療支援をしています」と小笠原学長。そのほかに、岩手県内の県立病院の常勤医の約半数が、岩手医科大学からの派遣によって補われています。この構図が崩れれば、岩手の地域医療は崩壊の危機に直面します。

「先日、岩手医大の市民公開講座で岩手県の医療危機の話をしましたが、少子化やコロナ禍の影響で全国的に医療系大学の経営は厳しい状況です。岩手医大は私立ですから、一般企業と同じように経営が悪化すれば潰れます。そうならないためには、ほかにはない魅力を創らなければならない」と小笠原学長。例えば、日本で2台目となる「7テスラMRI」を導入し脳の臨床研究に力を入れるなど、これまでもさまざまな特色を打ち出してきました。「この研究も一段落し、新たに岩手医大として世の中に誇れる領域の研究が助走モードに入り、今後1年以内に公表できる段階まで進んでいます」。この新たな領域を専門的に学びたいという学生や研究者が全国から集まり、岩手にいながら世界的な研究をすることができれば、卒業後も多くの医療人が岩手に残り、岩手の地域医療を支えることにつながります。「岩手から一流を目指す、そういう気持ちで医療と向き合っている人が岩手医大にはたくさんいます」と小笠原学長は話します。

 最後に、シニア世代の健康維持についてお聞きすると、自分の歯でよく噛むことが大事とのこと。「子どもの頃からおやつにイカの一夜干しを食べて育ったので、噛む力と集中力には自信があります」と小笠原学長。最近になって親知らずが生えてきて、自分でも驚いているといいます。噛むことで唾液が分泌され、虫歯や歯周病を防ぎます。また、脳を活性化させ認知症の予防にもつながります。老後をいかに健康で元気に過ごすことができるか、岩手の医療危機を救う鍵は私たちシニア世代が握っているのかもしれません。

プロフィール

1959年、青森県生まれ。幼少期に体が弱く病院が身近な存在だったこともあり3歳で医師を目指すと宣言。弘前大学医学部では6年間野球に明け暮れ、東日本医科学生総合体育大会で優勝。卒業後は東北大学脳神経外科教室に入局、広南会広南病院(仙台市)脳神経外科病棟医長を経て1998年に岩手医科大学へ。2008年に同大学脳神経外科学講座教授、2018年に同大学附属病院病院長、今年4月に同大学学長に就任

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