岩手とインドの国際交流

岩手とインドの国際交流

インタビュー
インタビュー 駐日インド大使 ナグマ・モハメド・マリック さん(58) 岩手県知事 達増 拓也 さん(61)
左:駐日インド大使
ナグマ・モハメド・マリック さん
(58)
右:岩手県知事
達増 拓也 さん
(61)

● インド大使館への表敬訪問と交流イベント

 令和7年12月19日、岩手県の達増拓也知事は東京都千代田区の在日インド大使館を訪れました。

 この日は表敬訪問に加え、大使館内(講堂・ロビー)で交流イベント「印日パートナーシップ:岩手」(通称:岩手デイ)も行われ、挨拶と対話、具体的な情報交換が続く一日となりました。

 企画は、前任の駐日インド大使シビ・ジョージ氏の岩手県訪問を機に、双方で意見交換を重ねて具体化したものです。

 表敬訪問では、達増知事が ナグマ・モハメド・マリック駐日インド大使と挨拶を交わし、これまでの交流の積み重ねと今後の関係づくりについて意見を交わしました。知事は取材に対し、「新しい大使と今回初めてお目にかかったが、すぐに打ち解けていろんな話ができた。岩手とインドの関係を発展させていこうという点で意気投合し、手応えがあった」と振り返っています。大使の印象についても「表現が豊かで、どんな国のどんな人とも協力関係を発展させられる意欲と力を持った方だと感じた」と語りました。

インタビュー 駐日インド大使 ナグマ・モハメド・マリック さん(58) 岩手県知事 達増 拓也 さん(61)
表敬訪問の様子(左からインド大使、知事、副議長、副知事)

 午後の交流イベントには、インドとの交流に関心を持つ企業関係者や大使館関係者のほか、県選出国会議員、県議会議員など、岩手側・インド側あわせて約180名が参加。主催者(駐日インド大使、達増知事)挨拶と来賓挨拶に続き、岩手県側、県内企業、インド側企業のプレゼンが行われました。さらに盛岡さんさ踊り、インドの郷土芸能披露などのアトラクションも組み込まれ、ロビーでは県産品展示と試飲試食を介した交流が生まれていました。知事は「プレゼンも挨拶も踊りも、どれも充実していた。物産展示や試飲試食も含め、協力関係を発展させていく希望が持てる会になった」と語っています。

インタビュー 駐日インド大使 ナグマ・モハメド・マリック さん(58) 岩手県知事 達増 拓也 さん(61)

●岩手の強みとつながりの必要性

 表敬訪問後に達増知事に取材すると、「インドの勢い」に加え、岩手が置かれた状況をどう捉え、何を強みに世界とつながるのかについても語られました。

 知事が最初に挙げたのは半導体分野で、「半導体に関する協力に大きな可能性がある」といいます。「インドは産業育成を進める中で、半導体のような分野は自国だけで立ち上げることが難しかった面がある一方、近年は工業地帯づくりや工場建設、国内企業の参入などの動きが進んでいる」と知事は続けます。その「伸びる余地」がある段階だからこそ、岩手として協力の余地があるというわけです。

 続いてインドへの印象や魅力について、知事は二つの軸で語りました。一つは人材に関して。1990年頃、知事が米国留学時代には、インドからの留学生が非常に優秀で積極的だった記憶が残っているといいます。加えて、半導体や科学技術の最前線でインド系人材が活躍する場面に触れてきた経験から、「勉強熱心で先端分野で活躍するインド人」というイメージが積み上がったと話します。もう一つは文化です。歴史文化の厚み、建築や装飾はもちろん、食に関しても、外務省勤務時代に本格的なインド料理に親しんだ経験にも触れ、「スパイスでおいしさを作る文化は、日本にない面白さがある」と語りました。違いを“壁”ではなく“面白さ”として捉える姿勢が、知事の言葉の端々に表れていました。

インタビュー 駐日インド大使 ナグマ・モハメド・マリック さん(58) 岩手県知事 達増 拓也 さん(61)
意見を交わすインド大使と達増知事

 そして知事が「地方の国際化」を語る上で強調したのが、日本の立ち位置です。知事は「90年代、日本のGDPは世界経済の約18%を占めていたが、今は4%ほど」と説明し、その4%内で経済活動する発想では地方はより勝負がしにくいという問題意識を示しました。「90年代、日本の存在感が大きかったころは国内市場だけでも世界の大きな部分と関わることができた。しかし今は、世界の中での日本の比重が相対的に小さい。だからこそ、世界全体を視野に入れ、外の成長と接点を持つことが欠かせない。関わらないのはもったいない」と語ります。

 この視点は、人口減少・高齢化が進む岩手にとっても「希望」になり得ます。外の需要、外の人材、外の発想とつながることで、産業・教育・観光といった地域の基盤を強くできるからです。知事が挙げた岩手の強みは、まず食に関して。世界的に日本食への需要が高まる中、食材を生み出している地方には強みがあり、岩手は米、肉、果物、海産物、きのこ類など質の高い農林水産物があります。次に文化に関して。「日本の生活文化の“日本らしさ”は地方にこそ色濃く残り、日本をより知ろうと今後インバウンドが地方へより広がる可能性があります。ニューヨーク・タイムズが盛岡を取り上げた話や、大谷翔平選手をはじめ岩手ゆかりの人々の活躍が“後押し”になっていることもその一つです」と語ります。知事が強調する「世界の大きな部分(成長する側)に、岩手が直接関わるメリット」は、県産品、観光、技術、人材育成と分野は違っても、外の需要とつながれば、岩手の産業と暮らしに循環を生む可能性があるということです。

インタビュー 駐日インド大使 ナグマ・モハメド・マリック さん(58) 岩手県知事 達増 拓也 さん(61)
岩手デイ視察の様子

 その追い風を実際の連携につなげるには、「伝え方」と「関係づくり」が欠かせません。達増知事が重視するのも、まさにこのコミュニケーションの部分でした。知事は外務省時代の経験を踏まえ、「直接も話せるが、通訳を介しても、ポイントを外さずに意思疎通を進められる」と述べました。語学の巧さだけが国際化ではなく、相手の言葉や文化が違っても要点を整理し、通訳も含めた手段を使いながら合意点を探っていくことが重要だといいます。

インタビュー 駐日インド大使 ナグマ・モハメド・マリック さん(58) 岩手県知事 達増 拓也 さん(61)
ホールでのさんさ踊りの披露の様子

 さらに知事は、海外では「会いに来る=本題を進める」という感覚が強い場面もあると指摘します。だからこそ、限られた時間で何を伝えるか、どこまで進めるかを見極める必要があります。その具体例として知事は、モディ首相と短い会話を交わした際にも、半導体協力の話題を端的に伝え、相手の反応を確かめた経験を挙げました。国際化が進むほど、こうした“要点を届ける伝え方”を共有し、関係者が動きやすい場を整えていく役割は、より重要になっていきます。岩手が世界と直接関わる機会が増えるほど、その役割はますます大きくなっていくといいます。

● 姿勢からはじまる国際交流

 国際交流というと、「語学ができない」「海外は遠い」と感じる方もいるかもしれません。けれど今回の表敬訪問で印象的だったのは、交流の入口が意外と身近にある、ということでした。

 その象徴が、駐日インド大使公邸です。実はこの公邸は、かつて岩手の南部家の邸宅で、達増知事は「大変なご縁を感じている」と語りました。昨年、知事はシビ・ジョージ前大使の招待を受けて公邸を訪問しています。そこで目にしたのは、歴代大使が古い建物を大切に保存し、丁寧に使い続けてきた姿でした。

 ナグマ・モハメド・マリック大使は、18年前の改修時のエピソードに触れます。インド政府からはインド式の装飾を施すよう求められたものの、当時の駐日大使が「これは日本の大事な遺産でもある」ということを訴え、できるだけ元の姿のまま保存し使い続ける方針にしているというのです。

 国際交流は、新しいことを始めるだけではありません。互いの文化を尊重し、受け継いできたものを大切にする。その積み重ねが信頼をつくり、次の協力の土台になるといいます。公邸をめぐるやり取りは、そのことを分かりやすく教えてくれました。

 達増知事は、県民へこう呼びかけます。「日本の外の世界は、いまも成長を続けています。そして海外の人たちは、日本に強い関心を持ち、日本人と力を合わせて何かをしたいと願っている。岩手からも、どんどん応えていければいいと思います」。

 海外の動きに少し目を向けるだけで、暮らしや仕事、学びに役立つヒントが見えてきます。県産品を選んで誰かに勧めてみる。交流イベントに足を運んで話を聞いてみる。そんな小さな一歩が、岩手と世界をつなぐ力になるのではないでしょうか。

各写真提供:岩手県 ふるさと振興部 国際室

プロフィール

達増 拓也さん:1964年生まれ、盛岡市出身。岩手大学教育学部附属小学校、同中学校、盛岡第一高校、東京大学法学部を卒業。1988年外務省入省。1996年から4期連続で衆議院議員を務めた後、2007年から岩手県知事。現在5期目。尊敬する人物は新渡戸稲造、好きな言葉は「浩然の気(『孟子』より)」。趣味は合唱、テニス

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