【異界早池峰】七不思議は溢れ出す不思議の泉

【異界早池峰】七不思議は溢れ出す不思議の泉

風のうわさ
風のうわさ イワテ奇談漂流

高橋政彦さん

 早池峰山は東北の修験(しゅげん)五霊山の一つであり、岩手県唯一の道場とされる。早池峰信仰には多様な信仰・伝承が残されていて興味深い。

 遠野地方に残る早池峰山・六角牛山(ろっこうしさん)・石神山という三山の姫神伝説では、その三姉妹の末娘が最も美しい早池峰山の女神となったと伝わる。と同時に『遠野物語』の拾遺(しゅうい)126話には「早池峰山の主は、三面大黒といって、三面一本脚の怪物だという」という狩人が伝えた話も見られる。三面一本脚の怪物…なんと恐ろしい異形の姿であろうか。

 早池峰山には古くより語り継がれてきた「七不思議」がある。『奥州南部早池峰山縁起』や『早池峰詣』など、いくつかの文献に七不思議は記されているが、文献によって微妙に異なる部分がある。ここでは一般的によく紹介される七不思議を列記しておきたい。

 一、賽の河原の「天灯」
 二、賽の河原の「龍灯」
 三、お田植えの「早乙女の声」
 四、竜ケ馬場(りゅうがばば)の「駒の声」
 五、鶏頭山の「鶏の声」
 六、貞任(さだとう)穴の「軍勢の音」
 七、河原の坊の「読経の声」

 早池峰の七不思議は、苛酷な修行によって研ぎ澄まされる視覚と聴覚によって起こる現象に思える。つまり、幻覚と空耳なのではなかろうか、と。しかし、こうした奇跡は修行僧たちにとって恐怖を越えた歓喜となる。

 この七不思議でとりわけ興味深いのは、賽の河原の「天灯」と「龍灯」という怪光の類いである。「天灯」は山頂に向かい天から下り、「龍灯」は山頂に向かい眼下から上ってくる灯りなのだという。そして、どちらも7月16日の夜に見えると覚え書きがつく。この日付が持つ意味とは何なのだろう。深く調べてみたい事案だ。

 また、河原の坊の「読経の声」も面白い。以前このコラムで書いた宮沢賢治の「河原坊(山脚の黎明)」という詩とリンクする内容だ。というか、賢治はこの七不思議を知った上で、自身も河原の坊で野宿を決行し、そして謎の「読経の声」に出会っていた可能性が高い。この詩はその時のことを臨場感たっぷりに物語ったのだろう。

 さて、この早池峰山にとどまらず、岩手県内には他にいくつかの七不思議が語り継がれている。『岩手の伝説を歩く』(岩手日報社刊)には奥州市水沢区の正法寺と、花巻市東和町谷内の丹内山(たんないさん)神社の七不思議が紹介されているし、昭和63年刊行の『岩手百科事典』には盛岡・安倍館(あべたて)の七不思議の記述がある。どちらも古本で入手可能。興味ある方はぜひ。

 昔々の七不思議はいつか薄れゆく。だが、いつの時代も不思議の泉は枯れることがない。自分が暮らす地域や興味あるフィールドを見渡して、今の時代ならではの「新・七不思議」を発見するのもいい。

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