【北行伝説を釣る】御曹司のため 糧を得る方法

【北行伝説を釣る】御曹司のため 糧を得る方法

風のうわさ
風のうわさ イワテ奇談漂流

高橋政彦さん

 かつて義経北行伝説のルートに沿って流れる川ばかりを釣り歩くということをやってみたことがある。

 北行伝説には、各地で食糧を提供してもらいながら進んだ逸話がいくつか伝えられている。各地の権力者の家に立ち寄って粟などを借用したのだ。その証文が残される旧家があるという。隠密の旅なのにずいぶんと律儀な話だが、それはさておき、長い旅路ゆえ、借りたり頂いたりしたものだけで食糧が足りたとは思えない。特に人里離れた森の中や海べりなどでは、自力で食べ物を現地調達しなければ成り立たない。幸いなのは今とは桁違いに自然の恵みが豊かだった時代ということである。弓矢で鹿や兎などの獣を射止めたことは考えられるが、他に家臣の中に釣りや漁に秀でた者、山菜や茸、食える野草に詳しい者もいたはずだ。

 そんな義経家臣の一人になりきったつもりで、私は「御曹司のための魚を釣る」という擬似体験に挑戦したというわけである。

 その時使った地図帳が見つかった。伝説ルートに沿って流れる川がマーカーされ、覚書が記してあった。

 最初が束稲山の東側、大東町の観福寺の傍らを流れる猿沢川。この川沿いに江刺市(現奥州市)へと北上する途中にある陽王滝にも釣り糸を垂らした。次に源休館跡付近の伊手川。そして種山高原を越えた住田町側の判官山麓を流れる大股川。世田米から下有住・上有住の集落に沿って流れる気仙川と坂本川も釣り彷徨った。赤羽峠越えで入った遠野市では「風呂家」界隈の猫川や中沢川も。伝説ルートは遠野からは二股に分かれている。一つは大槌町方面に向かう笛吹峠越えの道。この険しい谷底を流れる河内川も訪ねた。また、もう一つのルート、川井村江繋方面へと向かう立丸峠手前の琴畑川や恩徳川にも入渓し、岩魚や山女魚を釣った。

 だが、この一連の挑戦、実はこのあたりで頓挫してしまっている。気力体力を維持しての踏破はなかなか難しい。あくまで延期と自分に言い聞かせたものの、あれこれ理由をつけて続きを釣り歩けていないというのが実情だ。義経北行伝説に沿った未踏破の川はまだまだあるというのに、なんとも情けない。

 そうなのだ。青ノ木川、鵜住居川、大槌川、金沢川、小国川、鈴久名川、閉伊川、小本川、安家川、宇部川、長内川、久慈川、夏井川、有家川…と、まだまだ身を置かねばならない川はいくつもあるのだ。

 今回、こうやって並べ、改めて地図に照らし合わせてみたことで、義経一行の北への旅は相当に長く、難儀なものであったことを再認識した。と、同時にこのまま終わりにするなどもったいないと思い始めた。もう一度、平泉スタートで「義経北行伝説を釣る」を再開してみようか。前回やった時と時代も移り変わり、表現法も多様化してきていることだし、どうせなら動画で記録するのもいいだろう。それをちょいちょいユーチューブで発信しつつ、ゆっくり北を目指してみるのもいいかもしれない。

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