最初に断っておきます。食事中の方は、ぜひ「ごちそうさま」 をしてからお読みください(笑)。
かつて八幡平市安代町田山の瀬ノ沢川を釣行した時の話である。この川は大河・米代川の支流として里山に寄り添うようにして流れるのだが、車で15分ほど上流に進み、花輪鉱山跡地を過ぎたあたりで、一本の支流が合流する。茂谷地川である。鬱蒼とした森の中を流れる小さな川。ここで私は奇妙な光景に出合った。
付近で採取したミミズを餌に、蒼く渦巻く澱みの中から岩魚を釣り上げた時である。25センチほどの岩魚を針から外そうと口を凝視した私は仰天した。岩魚の口の中が真っ黒い髪の毛でいっぱいだったのだ。
瞬時に、岩魚が潜んでいた川底に水死体でもあって、岩魚はそれを食べていたのではないか。そう妄想し、恐怖しながら、釣り針から振り払うようにして岩魚を川に戻してしまった。
だが、しっかり確認しなかったことをやや後悔した。寄生虫の一種だったかもしれないという思いに至ったからである。私は帰宅するや否や、渓魚に寄生する虫について調べ、そしてさらに身震いした。
「ヒトガタムシ」とも呼ばれる「サルミンコーラ」は、その名の通り、まさに人の形に見える虫。おぞましいことこの上ない見た目である。しかし、食べても人体には無害というからますます奇っ怪だ。
「肝吸虫(かんきゅうちゅう)」は字面がすでに気色悪い。こいつは計算高い悪いやつで、タニシから淡水魚へ、魚から肉食性の哺乳類へと宿主を変えていく。つまりこれが寄生している川魚を食べてしまうと、われわれ人間にも寄生する。こいつは厄介で、発熱や腹痛、下痢といった症状が出るだけでなく、重症化すると肝硬変だの胆管細胞癌に至るケースもあるという。
「有棘顎口虫(ゆうきょくがっこうちゅう)」というやつも怖い漢字だらけの名だ。これは3ミリ程度の透明な幼虫だそうだが、人の体内では成虫になることなく、幼虫のままモゾモゾと皮下を移動・徘徊する。それによって皮膚の腫脹やミミズ腫れなどが起こる。酷い時は目や内臓や脳などに迷い込むというから、相当にヤバい。
しかし、ここまで紹介してみた中には、私が目撃した「口の中が真っ黒い髪の毛でいっぱい」に見えるというようなものはいない。あれはやはり私の見間違いだったのだろうか。そうあってほしい気もするが、この目でしっかり見たという自信もある。今もあのえげつない光景が目に焼きついて離れていない。まだ世間に紹介されていない寄生虫ということもありえるのだろうが、もう2度と出合いたくないトラウマ光景だ。