【太田薬師(おおたやくし)407.5m】縄文人も見つめた風景美

【太田薬師(おおたやくし)407.5m】縄文人も見つめた風景美

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

「峰のお薬師さん」として親しまれる太田薬師は、盛岡市猪去(いさり)の薬師山のことを指す。リンゴ栽培が盛んな猪去地区では、クマがちょくちょく出没するため、Y字路の看板に「電気柵!注意」とある。そうだ私にも、牧野の柵をまたいでビビッときた苦い経験があった。あの電撃ショックは強烈に効く。クマだって誓うはずだ「もう二度と近づきません!」と。太田薬師に登るなら、クマが冬眠する厳冬期がチャンスである。さらさら雪を踏むウオーキングがなによりも心地いい。

 県道1号線をそれ、猪去沢林道を目指す。沢にかかる橋を渡って農道を直進し、鳥居をくぐってスギの林間を歩く。分岐で左。葛根田地熱線の見晴らしのきく作業道を登れば、清々しい冬の田園風景を眺められる。帰りは、神社裏まで延びた林道を下る時計回りがおススメである。

 猪去とは「砂礫地(されきち)の開墾」の意だが、岩手山をバックに広がる大雪原は耕地、暗緑色の稲荷山や蟹沢山、そして8000年前の縄文時代早期の集落だったという上平(うわだい)遺跡を見下す。猪去の大地は、縄文人も見つめた悠久の風景美なのだ。

 山頂には806年創建の薬師神社がある。一切の病気を治し、民衆を救う薬師如来像がご神体で、枯れてなお幹を残す松の巨木がご神木だ。猪去蔵人が1550年に手植したクロビは樹齢470年、盛岡市指定の天然記念物で、傍らに目・耳・口など体の穴の病気が治った記念に奉納された「穴あき石」がある。

 三角点は、泣きたくなるほど探し回ったが発見できず。ある日ラジオで話題にしたところ、なんと登山を愛好するSさんグループが見つけて写真を送って下さった。撮影後は、腐葉土に埋まったままの現況に戻したとか。スマホの三角点ビューには「地理院地図[GSI]に切り替えて確認して下さい」と記載されている。

太田薬師
左奥が赤林山、右は箱ヶ森。二山は稜線を連ねて真ん中のお薬師さんを見守っている。まるで兄と姉のように

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