【姫神山(ひめかみさん)1123m】東の山に 黄金あり

【姫神山(ひめかみさん)1123m】東の山に 黄金あり

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 通年型の山として人気の高い姫神山は、その昔、山伏たちが修行を積んだ霊験あらたかな山域であった。駐車場とトイレのある一本杉登山口のほか、こわ坂コース、田代コース。南から登る城内コースは、採石場のある姫神嶽神社を出発し、古神山跡、湧水の清水神社、小姫神神社、水枯れしない巨岩の水石神社、笠詰神社、ほこだて神社、胎内くぐりから石羽根神社をお参りして、いよいよ山頂の本宮神社へと向かう。僧や山伏がお札を配ったとされる13の霊場跡を二時間でたどる。盛岡城から仰ぎ見る岩手山・早池峰山・姫神山を大権現とし、後に新山を加えて南部藩を守護する四山と定めた。山神さまの位(くらい)は断トツに高い。

 巨大な花崗岩が重なる山頂部は圧巻である。視界は360度。見渡せば、奥羽山脈と広大な北上山地が、北上川と平野部を挟みこみ、のびやかに広がって行く。まるで、我が腕に岩手をまるごと抱えこんだような感覚になる。「ヤッホー、これがイーハトーブの大地だ」。

 天を指す一対の尖った岩峰は、神と人の交信基地だろうか。そう言えば、創作に行き詰ったイタリアの彫刻家ミケランジェロが、神から啓示を受けた場所も岩と石の頂(いただき)だった。「大理石の中から天使を掘り出す」とは、巨匠の有名な格言である。

『金』が2021年の世相を一文字であらわす漢字に選ばれた。「えっ、金を掘ったの?初耳」とビックリされるが、姫神山は金の山である。事実すそ野には、姫神金山・笠ヶ岳金山、北姫金山・岩玉金山など複数の抗口があり、古くは安倍貞任の時代より昭和の戦前まで、金が採掘されたと伝え聞く。別称で玉東山(ぎょくとうさん)と言い、「黄金なる東の山」と読み解く。

 姫神山はシンプルで美しい。かの格言のごとく四季折々の天使を掘りだしたいものだ。

姫神山
姫神山の上空に雲が湧く。自在に流れ、アッという間にちぎれて消える。夭逝の歌人は「雲は天才である」と言った

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