【矢神岳(やがみだけ) 666.3m】ぶっ飛べ ジャンプ台

【矢神岳(やがみだけ) 666.3m】ぶっ飛べ ジャンプ台

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

「飛ぶというよりは墜落の感覚です」。ジャンプの飛翔感をこう表現したのは、故菊池隆先生だった。八幡平市出身の小林稜侑選手が冬期北京オリンピックのノーマルヒルで金を獲得したのは2022年、小さいころからすばしっこくて、ジャンプのコツをつかむのが上手(うま)かったという。稜侑選手が滑った田山スキー場は、八幡平市田山の「矢神岳」に1963年、ジャンプ台を備えたゲレンデとして開設されている。

 矢神岳は国道282号から台形状に立ちあがった岩の山である。山頂直下に設置した大小合計3本のジャンプ台は、国道から全部は見えにくい。だが矢神岳を登って行って、そのスロープを眺めて唖然とした。「あんな高いところから飛んじゃうの?」。見上げるだけで怖気づく。しかも屈(かが)んだ姿勢で滑って踏み出すのだから、太陽に翼を焼かれて墜落したイカロス(ギリシャ神話)じゃないか。でも登山なら大丈夫。早春のゲレンデを歩いて眺めてスリリング、聞きしに勝る高度感を味わう。

 矢神とは、岩を依り代(よりしろ)とする岩神さまのこと。個性的な巨岩があるとか、特異な絶壁があるわけではない。いわば山全体が神聖なる岩塊だ。眼下の田山集落が矢神さまの念力によって護られていることが分かる。

 ジャンプ台をチラチラ見上げたりして急な斜面を歩く。尾根に上がってしまえば平坦な砂利道が続き、マットゴルフ場のある「矢神山自然公園」に突きあたる。広場を折り返し進んで田山広域テレビ受信所のある山頂まで向かう。

 残雪の山頂だった。ここから直(ちょく)だと無駄なく下れるが、躓(つまず)いたら真っ逆さま悲劇のイカロスだ。ここは安全策をとって今来たルートを引き返す。ゲレンデの視界は360度。北で一等三角点の中岳と四角岳が異彩を放つ。願わくは、選手のぶっ飛び雄姿を観戦したい。

矢神岳
「北風に耐えて鍛えて明日に飛べ」第43回あしろ国体開催記念の手拭いの文言より(昭和63年)。矢神岳を讃える雲流

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