【鷹巣山(たかのすやま) 341m】鷹がこのむ絶好の頂

【鷹巣山(たかのすやま) 341m】鷹がこのむ絶好の頂

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 釜石湾と唐丹湾(とうにわん)に挟まれた尾崎半島は、猛禽類が生息した絶好の営巣地であった。秋、はるか太平洋の彼方から生態系に君臨するワシタカ類が、北の地から渡って越冬し、春の到来とともに北へ飛びたって行く。

 冬のある日、尾崎白浜から「鷹巣山」に登った。北に釜石湾、南は唐丹湾が太平洋へ広がり、気分はスカッと爽快、何よりも眺望が素晴らしい。二等三角点と電波反射板のある狭いテッペンから鷹の目で見下ろせば、魚を寄せる小島が海岸線に点々と見てとれる。鰹島とか鱈島とか、大食漢のワシタカ類には、尾崎半島をとりまく海域こそが無尽蔵の餌場なのだ。上空から眼光するどく魚影を狙う。

 乾燥と強風に煽られた尾崎半島は2017年5月、山火事にみまわれた。およそ400ヘクタールの森を失い、この鷹巣山もマツやスギ・雑木を焼失、そこから7年が経つ。丸坊主になった山肌は今、鹿害からカラマツの幼木を保護するネットで囲んだ植林エリアと、マツや雑木のほったらかしゾーンとに配分していた。紺碧の海は平らかに、山は波打つ幾何学模様のしましまで、どちらも巨大な地上絵に見えてくる。

 登る方法は3つある。佐須集落から入る場合は作業道を歩く。尾崎白浜の尾崎神社本宮(もとみや)をスタートするなら、工事中の治山ダム上部から沢沿いに作業道を進み、出入口では鹿除けネットを元に戻す。3つ目は白浜集落から道なりに高度を上げて、作業小屋付近に駐車。100m先の沢筋を登り、鞍部より電柱のある尾根を登りつめ、20m下の作業道から鹿の通る尾根を縫う。どこを進んでも頂上の電波反射板が良き目印になる。

 鷹は飢えても穂を摘まず―「鷹」の語源は「高」。カラスやスズメのように「鷹は飢えても他人の穂を盗んで食べない」。品格の高い人をたとえる諺(ことわざ)だ。

シニアズ2024年4月号「ほくほくトレッキング」鷹の目で釜石湾を眺める。左手前はしま模様に植林された鷹巣山の山肌。「森よすくすく育て、戻ってこいワシタカ」
鷹の目で釜石湾を眺める。左手前はしま模様に植林された鷹巣山の山肌。「森よすくすく育て、戻ってこいワシタカ」

この記事をシェアする

Facebook
Twitter