兜明神岳の西に、標高930mの小ピークがある。区界の隠れスポット「見晴山」だ。惜しいかな、地形図に山名がないため見逃されやすい。ウオーキングセンターを出発して東より登れば、兜の岩塊がバ~ンと目に飛込む。夕陽に燃える兜もあれば、雨季なら幻想的な風情も味わい深い。新雪がパラッとかかった墨絵のような陰影、凍てつく冬は金属の光彩を放つ。そう、見晴山は舞台であり、兜の岩塊は七変化の立役者なのだ。
ときは春。区界高原少年自然の家の旧スキー場だった南西面は、スミレやニリンソウ、フデリンドウ…そして名も知らぬ草花が群生する。山の魅力は数々あるけれど、野に咲く花の可憐さ愛らしさに「ホラそこ、そっちにも」と誰もがニッコリだ。花好きの登山仲間の映子さんも「区界の花はすごい!量といい種類といいビックリだった」とため息をつく。
春一番で咲くスミレは、300種ともそれ以上ともされる。名前を覚えきれないので、単に「スミレ」と呼んでしまう私だが、気に入りはアケボノスミレ(曙菫)。土から立つ茎の先端に一輪、大ぶりで淡い曙色の花をつける。赤ちゃんピンクとも違う薄紫がかった怪しげな色合いに、昆虫ならずとも誘い込まれる。
5月~6月に群生するアズマギクも見事だ。花言葉が「また会う日まで」とか「しばしの別れ」、別名ミヤコワスレで「都忘れ」と書く。
そして「クザカイタンポポ」は、絶滅危惧種のAランクに指定された貴重な植物だ。葉はギザギザの三角状に尖がり、花の先端がちょっぴり黒ずむ。ニホンタンポポの仲間で半日陰の林を好む。本州では珍しい蒲公英(たんぽぽ)で、昭和初めに発見した北村四郎博士の名前を冠し、学名「タラクサクム クザカイエンセ キタムラ」という。絶滅しないよう見守り隊に徹したいと思う。