全国に広まる、桜色

全国に広まる、桜色

インタビュー
さくら染家 和の衣 さとう 代表 佐藤 敏孝さん、和の衣 さとう 店長 佐藤 美津子さん
さくら染家 和の衣 さとう 代表
佐藤 敏孝さん
(71)
和の衣 さとう 店長
佐藤 美津子さん
(71)

● 北上市が誇る展勝地さくら染め

 昨年、開園100周年を迎えた北上市展勝地。川沿いの桜並木が満開になった姿は絶景で、全国的に有名なお花見スポットになっています。そんな展勝地の桜で染められたハンカチやネクタイが北上市を代表する土産品として、手にした人の目を楽しませています。

 鮮やかな桜色に染め上げる「展勝地さくら染め」を行っているのは、北上市で悉皆屋(しっかいや)「和の衣 さとう」を営む佐藤さん夫婦。染め返しや修繕したい着物を京都の専門店へ取り次いだり、着物の仕立て直しをする悉皆屋を父親から受け継ぎ二代目店主となった敏孝さん。終戦後、北上市の染め物工場で働いていた父親が独立して築いた店でしたが後を継ぐとは考えていなかったそう。「高校卒業後、東京の会社に勤めたのですが、帰省する度に父の友人から後を継ぐように言われ、継ぐことにしました。勉強のため東京の呉服問屋に転職し仕事をしながら着物の知識を学んでいましたが数年後、戻る頃には以前のようにお客さんの着物を京都の店に取り次ぐより、すでにある着物の販売がメインになっていました」と着物文化が変化し始めた時期だったと振り返ります。

● きっかけは、偶然手にした桜の枝

 着物の魅力を広めるため工夫を凝らしながら女将の美津子さんと店を切り盛りしていた敏孝さん。あるとき、お世話になった先生からある話が舞い込みます。「"お国染め"という地元の植物で染めた着物を作ってみないかと提案をもらいました。北上の極楽寺にある薬草が思い浮かび、京都の草木染めの先生と一緒に極楽寺に向かったのですが一株しかない貴重なもので貰うわけにはいきませんでした」と周辺の野山で同じ薬草を探してみますが見つからず、諦めるしかありませんでした。「どうしようか考えながら展勝地の桜並木を歩いていると、病気になった桜の枝を剪定しているのを見かけました。焼却処分すると言うので枝をもらい、京都の先生に調べてもらったら染められるとわかったので桜の枝で着物を作ることにしました」とその場面に出会わなかったらさくら染めはなかったかもしれないと敏孝さん。

「京都の草木染工房で染めてもらった着物を見てみんな"いいね"とは言ってくれましたが金額を聞いて離れていきました。とてもきれいな桜色でこのままではもったいないと思い、身近なハンカチを染めたら使ってくれるかもと考え、自分で染めてみようと始めました」と手に取って展勝地の桜の美しさを感じてほしいと「展勝地さくら染め」と名付けます。

● 桜に込めた熱い思い

 早速拾った枝で染めてみたましたが、最初は桜とは程遠い色だったそう。「木の幹のような薄茶色になってしまい不思議に思い、神奈川県の草木染めの先生のところに月1回通いました。2年間草木染めの勉強をして、きれいな色になるよう赤っぽくなる草木も混ぜてみたりしました」とあまり経験がなかった染物に挑戦する敏孝さん。先生のもとでは桜の染めものを扱っていなかったので、独学で自然な色合いを追求。どうしても化学染料を使わず展勝地の桜の枝だけで色を出したかったと言います。2年ほど経つと染めるのに適した枝や染料の作り方、染める回数などを見極められるようになり徐々に理想の色に近づいていきます。「本物の色に近づけるのが大変で。手にした人が展勝地の桜を思い浮かべて、北上にまた来たいと思ってもらえるよう淡い桜色にこだわり続けました」と敏孝さんの地元への思いが込められます。次第に"きれいで見ていると嬉しくなる"や"自分の店に置かせて欲しい"という声ももらうようになり、敏孝さんが追い続けた桜色の良さがたくさんの人に伝わっていきます。

 さくら染めの存在が広まってくると思わぬ依頼が飛び込んできます。「子ども会から夏休みの宿題のためにさくら染めの体験会をやって欲しいと言われました。公民館を借りて主人が朝から染料を作って皆さんに体験してもらい、手間がかかるけど楽しいと言ってもらい嬉しかったです。卒業記念で行ったときは依頼された学校の桜でハンカチを染めて、大切にしてもらっていると聞きました」と教えてくれた美津子さん。地域の人に手作りの良さやさくら染めの魅力が伝わってよかったと言います。

 展勝地や北上市の魅力が伝わって欲しいと染め続けた23年間。その熱意は全国へと広がり、昨年12月、展勝地さくら染めタオルハンカチが第62回全国推奨観光土産品審査会 民工芸部門で最高賞の経済産業大臣賞を受賞。思いやこだわりが伝わって嬉しかったと言います。「いつもどんな人が使うのだろうと考えながら一枚一枚丁寧に染めています。染めたハンカチを見て遠く離れた場所でも北上を思って欲しい」と敏孝さん。その思いは色褪せることはありません。

展勝地さくら染めタオルハンカチ
展勝地さくら染めタオルハンカチ

経済産業大臣賞を受賞した「展勝地さくら染めタオルハンカチ」。染色されない特殊な糸で刺繍されているので桜の花が浮き出ているようで美しい

プロフィール

1950年生まれ、北上市出身。悉皆屋「和の衣 さとう」を父親から受け継ぎ、女将の美津子さんと店を切り盛りする。展勝地さくら染めを始め、着物文化を広めるため着付け教室や教室の皆さんと行う「きものde探検隊」という着物で観光地を巡る活動も展開している

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