転ばぬことは、長生きの秘訣
《想活》

転ばぬことは、長生きの秘訣

岩手医科大学コラム

目次

  “最期まで元気でいたい”、“寝たきりになって家族に迷惑をかけたくない”とは、誰でも考える「想活」の1つです。健康で長生きすることは、自分自身にとっても、また家族や周りの人たちにとっても、共通の目標ではないでしょうか。健康寿命を延ばすために大切なこと、今回は健康寿命を脅かす「転倒」について一緒に考えてみましょう。

転倒(ころぶ)は健康長寿を脅かす

 この1年間に転倒しましたか。という問いに、あったという方がいれば、転倒するリスクが高まっているかもしれません。65歳以上の高齢者の30%が少なくとも年に 1回は転倒し、転倒により10人に1人は骨折するといわれています。骨折すれば、その後の身体機能に大きな悪影響を及ぼします。転倒での骨折によって要介護状態になる方は「認知症」「脳卒中」「高齢による衰弱」に次いで多く、転ばないことが、健康長寿を伸ばすための重要な要素になります。

転倒の危険因子

 転倒の主な原因として、①加齢による身体機能の低下、②病気や薬の影響、③運動不足が挙げられます。高齢になると筋力、バランス能力、瞬発力、柔軟性が衰え、とっさのときに反射的動作が行えなくなります。コロナ窩で外出や身体活動の機会が減ったことで、身体機能がさらに弱まっていることが懸念されます。また加齢とともに病気が増え、飲む薬の種類が増えたために起きる立ちくらみやふらつきなどの副作用が、転倒の危険性を高めます。「ポリファーマシー」と呼ばれる社会的問題にもなっています。

ポリファーマシーと転倒

「ポリファーマシー」、聞き慣れない方も多いと思います。ポリ(多数の)ファーマシー(調剤)、文字通り5、6種類の薬剤が処方されている状態をいいます。もちろん、高齢になれば必要な薬剤は増える傾向にありますが、5種類以上内服している高齢者の転倒リスクは飛躍的に高まることが知られています。薬剤数が増えるほど、また高齢になるほどそのリスクは高まります。特にも抗精神病薬やある種の睡眠薬などは転倒を来す可能性が高く、細心の注意が必要な薬剤です。病気の数が増えるのは仕方のないことですが、ポリファーマシーを避けるためには、お薬手帳の有効活用とともに、かかりつけ医やかかりつけ薬局をもち、しっかりとコミュニケーションを取りましょう。「クスリはリスク」ともいわれます。自分の薬について、よく知り上手につき合うことが大切です。

転倒を予防する体操

 転倒予防として、まずは下半身の筋肉を使う体操が勧められます。『椅子に座ってつま先を立てる』『椅子から立ち上がる』『立ち上がりからのつま先立ち』『交互に太ももを上げる』体操などは有効です。また、片脚立ちをし、もう一方の脚を前後左右に上げ保持する体操はバランス感覚の向上に役立ちます。テーブルや椅子を手すりがわりにし、安全を確保して体操してみてください。“ラジオ体操”や“100歳体操”なども効果的ですので、楽しみながら続けましょう。

転倒を予防する環境整備

 高齢者の転倒事故の6割は自宅で発生しています。住み慣れた環境であっても、転倒予防の整備がとても大切です。たとえば、コード類は歩かないところに収納、段差の解消、マットやカーペットがめくれないよう、床には物を置かない。こたつ布団や座布団も引っかからないように注意が必要です。玄関や廊下には手すり、暗い場合には照明をつけ、滑りやすい靴下やスリッパは履かないようにすることも大切です。家の外でも段差や側溝に気をつけ、特にも冬場は玄関周りも凍るので、滑りにくい履き物で、路面状況には細心の注意を払いましょう。

人との交流が転倒を予防する

 最近の研究では、運動をグループで行うことで、1人で運動するよりも転倒リスクが低下することがわかっています。グループによる運動は、身体活動量の増加のみならずメンタルへルスも向上させ、「高齢者うつ」の予防や改善にも効果的です。高齢になり社会的つながりが薄くなると、フレイルが始まることはよく知られていますが、スポーツを通じての社会や人との交流はフレイルの予防だけでなく、転倒リスクの低下にもとても有効で、健康寿命を伸ばす特効薬ともいえます。

思いやりとしてのアドバンス・ケア・プランニング(人生会議)

 最後になりましたが、「アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)」についてひと言。健康寿命を伸ばす生活を続けても、いつかは必ずお別れの時がやってきます。病気やけがなどで命の危機が迫ったときに、多くの人は医療やケアについて自分で決めたり、希望を伝えたりすることが難しくなります。自分の意思を伝えられなくなっても、最後まで自分らしく生きるために、また残される家族や大切な人に不安や後悔を感じさせないためにも、人生会議で備えておきたいものです。あなたが大切にしている価値観や希望するケアなどをご家族やかかりつけ医などと話し合い、共有するための人生会議は「将来の自分」と「残される人たち」への思いやりに他なりません。特別なことではなく誰にとっても必要なことなのです。人生会議に決まった形はなく、将来を決める必要もありません。話し合うプロセスが重要です。

 しっかりと「転倒予防」に取り組みながらも、ときには「人生会議をしようか」と持ちかけてみるのは、なによりの「想活」ではないでしょうか。

内丸メディカルセンターから

高度外来機能病院として 地域に密着した役割を担います。

内丸MCでは、矢巾の附属病院(本院)との密接な連携のもと、医科21科による高度専門外来を行っております。また、どこを受診したらよいかわからない患者さんも受診できるよう総合診療外来も設置し、プライマリ・ケアにも力を入れております。歯科医療センターでは、高度な診断、治療提供体制を備えながら地域に密着した歯科医療を提供しております。内丸MCは、専門性と利便性を兼ね備えた新しいスタイルの地域医療拠点施設です。

下沖収先生

記事監修

岩手医科大学医学部総合診療医学講座教授
岩手医科大学附属内丸メディカルセンター センター長

下沖 収 先生

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