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「人の名前がすぐ出てこない」、「何を取りに来たのか思い出せない」、「気持ちが乗らない」などちょっとした変化を感じることはありませんか。このような変化は、脳の働きや心の活力が弱くなってきたサイン、脳フレイルの入り口かもしれません。
脳フレイルは病気ではありませんが「そろそろ生活習慣を見直しましょう」というメッセージと捉えることができます。今回は、未来の自分や大切な人のための“想活”として、脳フレイルについて深掘りしてみましょう。
フレイルの4つの側面
1. 身体的フレイル
筋力・歩行速度の低下、疲れやすさなどの身体機能の衰えがみられる状態です。歩行速度は「第6のバイタルサイン」とも呼ばれ、歩行速度が1m/秒を下回ると転倒や要介護リスクが高まるとされています。 また、身体的フレイルが進むと脳への血流も減り、認知機能の低下へとつながります。
2. 社会的フレイル
外出や会話の機会が減り、人との関係性が弱まった状態です。社会的フレイルは、身体的フレイルや心理的変化へつながる「フレイルドミノ」の原因にもなります。日頃の会話は、脳の働きを活性化し認知機能の維持のため、重要な役割を果たしています。
3. 口腔フレイル
噛む力や飲み込む力、滑舌などの口腔機能が弱くなる状態です。口腔機能の低下により食べられる食品が減り、栄養素不足から筋力低下を招きます。 また、話しにくさが会話の機会や外出頻度を減らして社会的フレイルを起こします。口腔機能低下が、将来の認知機能低下と関連することも知られています。
4. 脳フレイル
今回の主題である脳フレイルとは、軽い物忘れ、段取りの悪さ、意欲の低下など、脳の働きがゆるやかに低下してくる状態です。
• 同じ物を2度買う
• 家事の段取りに時間がかかる
• やる気が出ない
• 外出が面倒で人と会うのが億劫になる
こうした変化が複数みられるようになると、脳フレイルの可能性があります。
フレイルの4つの側面はいずれもが密接に関連しています。中でも脳フレイルは、自らが最初に気付くことができる変化でもあります。
脳フレイルが起こる要因
脳フレイルが起こる背景には、脳の予備力(ストレスや老化に対する“脳のゆとり”)の低下があるといわれます。
【活動量の減少】
運動量が落ちると、脳の前頭前野(思考・判断・意欲の調整)や海馬(記憶形成・空間認知)の働きが弱まる。
【社会的刺激の減少】
会話や交流が減ると、前頭前野や海馬が受ける刺激が少なくなり、脳の働きが低下する。
【栄養不足・口腔機能低下】
噛む力や飲み込む力の低下は、タンパク質やビタミン不足につながり、脳への栄養不足をきたす。
【生活習慣病の影響】
高血圧・糖尿病・脂質異常症などで、脳の細い血管が傷み、脳血流が低下する。
これらの要因が重なることで、脳の働きが少しずつ低下して脳フレイルの状態になるのです。
脳フレイルと人生会議(ACP)
脳の活性化や会話の機会を増やすために、家族や大切な人と“人生会議”をしてみてはいかがでしょうか。
人生会議とは、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の愛称です。脳フレイルのサインは、将来を考える良いタイミングともいえます。予備力があるうちに、人生会議で自分らしい生き方について、家族や医療者と話し合っておくことが大切です。
•何を大切にし、どんな生活を望むか
•どこで、誰と過ごしたいか
•どんな医療やケアに安心を感じるか
ACPは決して特別のことではなく、誰にでもいつかは訪れる人生最終段階に向けて、本人・家族・医療者が繰り返し話し合い、価値観に沿った医療・ケアを準備するプロセスです。元気なうちに話し合っておくことで将来の不安が減り、家族も迷うことなく支えることができます。未来の自分と家族や大切な人への思いやり、それが人生会議(ACP)なのです。
脳フレイルは改善できる!

有酸素運動をしよう!
(ウオーキング・体操)
海馬の萎縮を抑え、注意力や判断力の改善に効果的です。1日30〜60分ほどかけて楽しむのがポイントです。朝夕の軽い運動でもOK。

社会参加を心がける!
(会話・笑い)
会話は前頭前野を活性化し、認知機能の維持に有効です。挨拶や世間話、寄り合いに参加しましょう。笑顔で接したら効果絶大です。

栄養バランスの良い食事
(魚・大豆・野菜)
野菜・果物、オリーブオイル、魚介類は認知症リスクを下げます。大豆食品か乳製品を加え、タンパク質やカルシウムを補いましょう。

良質な睡眠を取ろう!
睡眠はアミロイドβ(脳のゴミ)除去と記憶整理に重要です。良質な睡眠のため、昼間の活動を増やし、就寝前は強い光やスマホを避け、ゆったり過ごしましょう。
内丸メディカルセンターから
内丸MCは2026年4月1日より生まれ変わります。
医科は総合診療とリプロダクションセンター(不妊外来)に集約されます。19番目の専門科である「総合診療科」では、どの科を受診したらよいかわからない、軽い症状やケガだけど診てもらいたい、あるいは複数の慢性疾患を併せて診てもらいたいという患者さんのご要望にお応えいたします。必要により、附属病院専門科や適切な医療機関へとスムーズに連携しますので、安心して受診してください。
歯科医療センターは、従来どおり高度でありながら身近な歯科医療を提供してまいります。
記事監修

岩手医科大学医学部 総合診療医学講座教授 岩手医科大学附属内丸メディカルセンター センター長
下沖 収 先生

