手仕事が紡ぐ人の輪

手仕事が紡ぐ人の輪

インタビュー
手仕事サークル 知好楽 代表
佐藤 律 さん
(73)

● 物心ついた頃から手仕事は生活の一部

 パッチワーク、洋裁、編み物などそれぞれ好きな手仕事を持ち寄り、おしゃべりを楽しみながら作業を進める手仕事サークル「知好楽」。代表の佐藤律さんの自宅兼アトリエには、手作りのハワイアンキルトやクッションなどが並び、手仕事のある暮らしを提案します。メンバーは現在25名、毎年作品展を開催し昨年10周年の節目を迎えました。

「結婚したら専業主婦になって、手仕事をしながらのんびり暮らすことが子どもの頃の夢でした」と話す佐藤さん。洋服から布団まで手作りする母の姿を見て育ち、小学1年生で手縫いのハンカチを友人にプレゼント。中学生になると人形の服をミシンで縫い、高校では部活動で使う山岳パンツや美術スモックなど夢中になって作っていきます。

 高校卒業後、上京していた姉の影響で東京の大学へ進学した佐藤さん。美術研究部に入部しデザインの楽しさを知ったと言います。そして、活動するうちに卒業後は宣伝に関わる仕事がしたいと思うように。「伊藤園に入社し販売促進部に配属になりました。新国劇の島田正吾さんが出演していた『お〜いお茶』のCM撮影や販売促進の仕事に携わり、東京暮らしを満喫しました」と話します。

 その後、25歳で結婚し専業主婦に。ご主人の転勤で名古屋、東京、盛岡、大船渡と転居を繰り返し、子ども3人の子育てに奮闘しながらも家族、友人のために手仕事を続けてきました。そんな家事・育児を頑張ってきた佐藤さんに人生の転機が訪れます。「子育てが終わり、習い始めたハワイアンフラの先生が本業の仕事をしながら、フラを極めているのを見て、私も何かアウトプットできないかと思いました」と考えた佐藤さん。自分が唯一できるのは皆のために頑張ってきた手仕事だと思い、作品展をやってみることに。自分の教室を立ち上げ、活き活きと活躍する先生の姿から一歩踏み出す勇気をもらったと話します。

●手仕事を楽しむ仲間とのつながり

 2014年、自宅の住み替えを機に、空き家になった前の家をギャラリーにして「律のなんだりかんだり手仕事作品展」を開催した佐藤さん。結婚以来38年分の作品展示のほか知人や近所の人を招待してハワイアンフラも披露しました。「実はこの作品展を区切りに手仕事を卒業するつもりでした」と佐藤さん。ところが、この作品展をきっかけに新たな人とのつながりが生まれ「手仕事サークル 知好楽」を設立することに。「なでしこジャパンの佐々木則夫監督が、何事も楽しんだ者勝ちだよと『知好楽』をテーマに指導しているというコラムを読み、これだと思いサークル名にしました」と振り返ります。設立当初7人だったメンバーは徐々に増え、2018年には盛岡支部を立ち上げるほど佐藤さんを慕い、多くの人の輪が広がっていきました。

 そんな年に一度の作品展の目玉の一つが「フレンドシップキルト」。一人一人がパーツ(パッチワークブロック)を縫いあげ、それらをつなぎ合わせて、最後に一枚の大きなパッチワークキルトに仕上げるもので、自分の作品を作りながらメンバー同士、協力しながら作り上げていったと話します。

「設立から10年、毎年テーマを決めて続けてきましたが、コロナ禍の2020年に『祈り』をテーマに作ったキルトは忘れられません」と佐藤さん。誰も来ないのではないかという不安の中で開催した作品展には4日間で過去最高の392人の来場者があり、友人や地域の人とのつながりの大切さを改めて感じたといいます。 

 手仕事は生活の一部であり物を大切にすることでもあると話す佐藤さん。不要になった生地をいただいたお礼に、ブランケットなどをリメイクしてプレゼントしているとのこと。「物にも命があると思ってどんな布も大切に無駄にしないよう心がけてきました。ところが数年前にタンスの中に着ていない着物が眠っていることに気付いて、私何をしてきたんだろうと罪の意識を感じました」と「着物孝行」をするため3年前、着物を楽しむ会「和好楽」を立ち上げました。「着物生活を楽しむことで着物用のバッグや帯も作るようになり、手仕事の作品の幅も広がりました。着物を通じて人の輪も広がるので着物を着てどんどん外に出ていきたいです」とさらに活動的に。手仕事を通して人と出会い生きる勇気やヒントをもらったと笑顔の佐藤さん。「寝たきりより出たきり」を目指して人生を楽しみたいと話してくれました。

プロフィール

1951年、奥州市生まれ。岩手県立水沢高等学校から東洋大学経営学部へ進学し、株式会社伊藤園入社。25歳で結婚し専業主婦に。子どもの頃から裁縫、編み物など趣味で手仕事を続け62歳で初の作品展を開催。2014年、手仕事サークル「知好楽」を立ち上げ、昨年10周年を迎える。座右の銘は、論語の教え「知好楽」

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