地域と共に歩む医療

地域と共に歩む医療

インタビュー
岩手医科大学附属 内丸メディカルセンター センター長 救急・災害・総合医学講座 総合診療医学分野 教授 下沖 収さん
岩手医科大学附属 内丸メディカルセンター センター長 救急・災害・総合医学講座 総合診療医学分野 教授
下沖 収さん
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● 誰でも受診できるプライマリ外来

 岩手医科大学附属病院の矢巾町への移転に伴い、内丸にあった元々の附属病院施設を利用して2019年9月に開業した岩手医科大学附属内丸メディカルセンター。開業から2年が経ちましたが、内丸と矢巾町の二つの岩手医大は何が違うの。どんな患者を受け入れるの。と思っている方も多いのではないでしょうか。

「どちらも同じ大学の附属病院ですが、役割が全く異なります。高度な専門医療を提供するのが矢巾町の岩手医科大学附属病院、そこへつながる窓口として誰でも相談できる専門外来が内丸メディカルセンターです」と話すのは下沖先生。現在、内丸メディカルセンターでは、大学病院の専門外来として医科21科、歯科10科を備えて幅広いニーズに対応。加えて、身近な医療機関として紹介状がなくても受診できる「プライマリ外来(総合診療科)」を設けています。かかりつけ医がなく、どこを受診したら良いのかわからない方の窓口にもなっており、必要に応じて専門外来や岩手医科大学附属病院へとバトンを渡し、地域の医療を総合的に支える役割を果たしているとのこと。

● 弱い人やお年寄りに寄り添う医療を

 プライマリ・ケアの専門家でもある下沖先生は、岩手県九戸村出身。豊かな自然のなかで近所のお年寄りたちと触れ合いながら幼少期を過ごしました。遠くの大きな病院まで行かなければ手術など専門的な医療が受けられない地域で育つなか、地域医療の必要性を感じ、医学の道を選択しました。

 自治医科大学卒業後、県立中央病院での研修医を経て県立釜石病院、県立住田病院、陸前高田市国保広田診療所、県立久慈病院、県立千厩病院と地域医療に従事。エリアも規模も異なるさまざまな医療機関での経験が、プライマリ・ケアをはじめ医療に対するマインド形成のベースになったといいます。

「私は外科医ですが、住田病院では内科医の院長と2人で、広田診療所では私1人で内科、外科、小児科、訪問診療、学校検診など幅広く経験させてもらいました。これらの経験が、総合的全人的にみる素地を作ってくれたと思います」。

 地域医療に求められるのは、すべての患者を受け入れ、必要に応じて次の医療へとつなぐこと。患者のニーズのみならず医師不足・高齢化など社会のニーズへの対応も求められるハードな日々が続くなか、下沖先生を支えてきたのは「外科医は柳の木だ」という先輩に教わった言葉だったといいます。大きくしなっても決して折れない柳の木のように、諦めずにタフに患者に寄り添ってきた経験が、誰でも何でも相談できる「プライマリ外来」の開設につながっていきました。

● 専門医療との連携で地域医療を支える

「地域の皆さまに良質な医療を、まごころをこめて提供します」の理念のもと、より身近な医療機関として地域医療を支える内丸メディカルセンター。「診療科によっては新患受入れのない曜日もあり、初診の方はHPや総合案内であらかじめ確認し、受診していただきたい」と下沖先生。今はまだ不十分なところもあるそうですが、患者さんや地域のニーズに応えながら、より受診しやすい病院へと進化するため、日々努力を重ねているといいます。

「岩手医科大学は医療機関であると同時に医育機関でもあります。将来的には、内丸メディカルセンターが総合的・包括的に地域医療を学べる場として充実することで、従来の高度専門医療に偏らずに地域総合医療もバランスよく身につけた医療者を育てられます。多くの学生が地域医療の楽しさを感じて岩手に残ることで、医師不足の解消、地域医療の充実につなげていきたいです」と、一歩先のビジョンについても話してくれました。医療の崩壊は、地域の崩壊につながります。岩手の医療と地域を守り育み、安心して暮らすことのできる未来へとつなげるために、内丸メディカルセンターのような地域密着型の総合医療サービス拠点が、今後ますます大きな役割を果たしていくことでしょう。

木伏緑地の風景
木伏緑地の風景

プロフィール

1963年生まれ、九戸村出身。江刺家小・中学校時代は大自然のなかで思いきり遊び、福岡高校時代は学ぶ楽しさに目覚め、お世話になった地元のお年寄りの役に立ちたいと自治医科大学へ進学。卒業後は、おもに沿岸エリアの地域医療に従事し、2019年に岩手医科大学附属内丸メディカルセンターの開業と同時にセンター長に就任。幼少期から続ける趣味のスキーは指導員の資格を持つほどの腕前。今シーズンは久しぶりにゲレンデに繰り出す予定

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