農家から政治の道へ

農家から政治の道へ

インタビュー
岩手県滝沢市 市長 武田 哲 さん 滝沢市営業係長 ちゃぐぽんさん
岩手県滝沢市 市長
武田 哲 さん
(59)
滝沢市営業係長
ちゃぐぽん

● 実家の農業を継ぎアイガモ農法を導入

 2024年に市制10周年を迎える滝沢市。岩手山の裾野に広がる豊かな大地にスイカやサツマイモなどおいしい恵みが実り、チャグチャグ馬コや神楽など伝統が脈々と受け継がれています。「日本一人口の多い村」から「やさしさに包まれた滝沢」を目指し、住みやすいまちづくりに務める三代目市長の武田哲さん。滝沢市で代々続く農家の家で生まれ育ち、農作業で培った忍耐力と熱き思いで滝沢市をけん引する存在です。

 幼いころから農作業を手伝い、昔から家業を継ぐことを考えていた武田さんは大学卒業と同時に就農。特に力を注いだのがアイガモ農法でした。「子どもと一緒に農業をするために農薬や化学肥料に頼らない米作りを始めたんですが、手探りのアイガモ農法ですよ。一晩で300羽以上のカモをキツネに殺されたり、米作りの先輩でもある父に理解してもらえなかったり、苦労しました。それでも土が変わっていくのが面白くて、初めてアイガモ農法で育てたお米を東京の米屋さんにおいしいと褒めてもらって、感動して鳥肌が立ちました」と振り返ります。

 理想の農業を追求し続ける武田さん。参加する農協青年部や農村青年クラブで同世代の農業後継者との交流の中で、農業や農政への問題意識を持つようになったそう。「農民作家の山下惣一さんと話す機会があって、お酒も入って熱く議論をした時に自分の考えの根っこができた」と話します。その後も交流が続き農業・農政について意見を交わし、他にもPTAや自治会に顔を出すと皆いろんな問題を抱えていることに気づきます。「今あるさまざまな地域の課題を解決するには、当事者の声を届けなければ」と2011年に滝沢村議選に立候補。その熱き思いが通じ、見事当選を果たします。

● 滝沢のために力を尽くしたい

 滝沢村議会議員から滝沢市議会議員、岩手県議会議員を経て2022年11月に滝沢市長に就任した武田さん。県議一期目の途中で滝沢市長選に出馬したのは、コロナ禍で閉塞する故郷を何とかしなければという思いからでした。「必死で頑張っている人がいっぱいいて、そういう人たちの頑張りをもっと支えなければならないと思った」とコロナ禍がもたらした現状を見て衝撃を受けたそう。「私の根っこはやっぱり滝沢市だよな」と、県議の経験をフルに活かして滝沢市のために働くことを決意します。

 選挙後、市長になった武田さんが早速行ったのが、市民同士が交わって共に進める地域づくり。高校・大学でのラグビー部での経験から一人では何もできないことを実感し、みんなで考え動く楽しさを学んだといいます。「地域づくりも同じで、そこで活動する人たちが自分で考え、自ら動いた方が楽しいはず」と武田さん。そのためまずは市民の声が知りたいと「市長と話そう!」という座談会を開き、小学生からお年寄りまであらゆる世代と直接会い話を聞くことに。また、登庁前に保育園や小学校で読み聞かせの活動を行いながら困っていることや不安を聞き、教育現場の今を肌で感じ取ります。

 そして、もともと感じていた滝沢市の魅力を活かしたいと学生と企業をつなぐ仕組みも考案中。「市内に岩手県立大学と盛岡大学、高校も2つあって岩手県で一番、暮らす人の平均年齢が若い。人材不足の今、これはものすごい強みだと思っています」と優秀な人材に活躍してもらい、地元の活力にしたいと話します。さらには「東北自動車道の2つのインターチェンジと田沢湖線、IGRがあるので人と物の流れがスムーズで企業にとっても条件は良いと感じています」と市民が生き生きと働ける場所を作るため企業誘致にも意欲的です。

「読み聞かせに行くと昔、子どもたちと川の字に寝て、読み聞かせをしていた頃を思い出すね」と輝く笑顔の武田さん。今日も市民の声を原動力に滝沢市のために行動します。

プロフィール

1964年、滝沢市生まれ。代々続く専業農家の長男として生まれ玉川大学農学部卒業後、農業に従事。『身土不二の探求』の著者として知られる山下惣一氏と親交を深め、1995年から農薬や化学肥料を使わないアイガモ農法で米作りを始める。高校・大学ではラグビーに夢中になり、20代で江戸千家の茶道を習い始め看板を取得。滝沢村議会議員、滝沢市議会議員、岩手県議会議員を経て2022年11月から現職。座右の銘は「農為国本」

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