● 自分の殻を破った モルディブでの挑戦
医療や教育、農業、水産業など、さまざまな分野で開発途上国の発展を支援するJICAボランティア。青年海外協力隊というと若者のイメージが強いですが、20歳から69歳まで応募でき、近年では定年後の第二の人生として参加するシニア世代も増えています。今回は青年海外協力隊の経験を持つ「JICAボランティアを支援するいわての会」事務局長・高橋宏昇さんに、海外でのボランティア活動と岩手との関わりについてお聞きしました。
高橋さんがJICA海外協力隊に参加したのは、テレビ局に勤務していた33歳の時でした。青年海外協力隊の知事表敬を取材し、飢餓や貧困が深刻なバングラデシュに派遣される若い看護師さんと出会ったことが、途上国に興味を持ったきっかけだったといいます。
数年後募集説明会に足を運び、モルディブでの番組制作の募集を見つけて応募しました。「渡航当初は、ニュースの秒針が5秒ずれていることなど、現地では取るに足らないことを気にしていました。今思えば、何も理解できていなかったのだと思います。日本の価値観にとらわれず、少しずつ現地の言葉や文化を受け入れていく中で、ようやく溶け込んでいきました。そうすることで、2年目から、モルディブでは初となるドキュメンタリー番組の制作にも取り組むことができました」と語ります。
現地語のデビヒ語を教えてもらったお礼に日本語を教えた青年が後にモルディブ大統領になるなど、出会いも発見も、苦労も喜びも、まさに人生が凝縮されたような2年間だったと振り返ります。帰国後の新聞記者時代に、このエピソードを岩手日報の「風土計」で紹介したことも、大切な思い出だと話します。
●岩手と海外をつなぐ 架け橋として
「JICAボランティアを支援するいわての会」では、海外での活動紹介をはじめ、県内企業や自治体への現職派遣の働きかけ、さらには帰国後の隊員の進路支援など、さまざまな活動を行っています。「慣れない土地で、知らない人たちと課題解決に取り組むという点で、JICA海外協力隊と地域おこし協力隊には多くの共通点があります」と高橋さん。
JICAでは現在、遠野市・釜石市・陸前高田市に海外協力隊の候補生を派遣し、地域創生の現場で3カ月間実践的に学ぶ『グローカルプログラム』という研修を行っています。地域課題に真正面から向き合い、住民と信頼関係を築く経験は、海外に出てからの活動にも大いに役立ちます。またその逆に、海外で得た柔軟な発想や多文化への理解を、日本の地域社会に持ち帰って生かすこともできるのです。「人の心に寄り添いながら問題を解決する姿勢は、どこにいても通じるもの。そうした視点を持った人材が地域に戻り、再び現場で活躍してくれることを期待しています。外国の方々と円満に共生するためにも、私自身、相互理解の場をもっと増やしていきたいですね」と意欲を見せます。
そんな高橋さんの元気の秘訣は、40年以上続けているテニス。「猛暑の中でも、ほぼ毎日ラケットを握っています」と笑顔で語ります。いつまでも好奇心を忘れず、人と人、地域と世界をつなぐ冒険を続けていきたい。その前向きな姿勢は、きっと読者の背中をそっと押してくれるはずです。