石割桜と共に伝統をつなぐ

石割桜と共に伝統をつなぐ

インタビュー
造園業 豊香園 6代目
藤村 尚樹 さん
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● 庭師一家に生まれ6代目を継承

 幕末の慶応年間に創業し、およそ160年の歴史を持つ盛岡市の豊香園。2代目治太郎さん、3代目益治郎さん親子が、1923年に起きた裁判所の火災から石割桜を守ったご縁で、代々その手入れを託されています。石割桜を守るノウハウと老舗の伝統を受け継ぐのは、6代目の藤村尚樹さん。職人の父、祖父、曽祖父に囲まれ、食事中も庭木の会話が飛び交い、冬休みには門松作りを手伝う、そんな庭師一家で育ちました。

「石割桜のニュースで父がテレビに映ると、すごい仕事をしているんだな、いつか自分もそうなるんだと思っていました」と笑顔を見せます。大学で造園学を学ぶうちに、専門家として行政の役に立ちたいと公務員を目指した時期もありましたが、紆余曲折を経て家業を継ぐ決心をしました。しかし、左利きの藤村さんにとって、道具や縄の結び方など一筋縄ではいかない苦労も。「待っていても教えてくれない職人の世界で見て覚え、考えながら技術を身につけました」と楽観的な性格で乗り越えていきます。

 そして、現場作業に加え、現会長の孝史さんからは営業手腕も学びました。「お客さんの質問に的確に答えて納得してもらうトークスキルは、いまだに父にはかないません」と話します。こうして先代の下で修行を積んでいた2018年の春、前触れもなく世代交代を告げられた藤村さん。「石割桜の囲いを外し終わったタイミングでした。父もまだ元気で早過ぎるとは思いましたが、一度口にしたことを曲げる人ではないので、任せたぞとスパッと隠居しました」と振り返ります。

 突然の社長就任から半年以上が経ち、石割桜の雪囲いの作業が始まる頃「自分の代で枯らすわけにはいかない」と、大きなプレッシャーを感じるようになったという藤村さん。老舗を継ぎ、守る責任の重さに気を引き締め、父に納得してもらえるような仕事を次の代につなぎたいと話します。

●植物の命に寄り添う仕事

 石割桜をはじめ植物の命に寄り添う藤村さんに、仕事のやりがいをお聞きすると「言葉を言わない植物の異変に気付き、手入れをして元気に回復してくれた時は最高に嬉しい」と話します。「逆に悲しいのは伐採です。大きくなり過ぎたから切ってほしいというご依頼も少なくありませんが、手入れでコンパクトにして様子を見ませんかとお話をしています」と続けます。人間と同じように植物も世界に一つだけの命だから、大切に育ててほしいと訴えます。

 しかし、今年は熊の出没が相次ぎ、柿、栗の木の伐採依頼が殺到しました。「空き家に熊が居座る危険もあり、やむを得ず伐採しました」。庭だけでなく空き家の管理の相談も多く、空き家の見回りや庭木の手入れをするサービスも開始しました。今後は、庭師の技術を生かして地域の安全にも貢献したいと話します。

 最後に「これからの季節は、春に向けてお庭の計画を立てるのに良い時期です」とのこと。次は何を植えようかイメージしながら、寒い冬を楽しく過ごしてほしいと話します。

プロフィール

1975年、盛岡市生まれ。岩手県立盛岡南高等学校(現 南昌みらい高校)、東京農業大学農学部造園学科卒業。民間企業勤務を経て家業の有限会社豊香園入社、2018年に代表取締役就任。趣味は、盛岡秋まつりへの参加とスポーツに励む子どもたちの応援。座右の銘は、3代目益治郎さんが新渡戸稲造からいただいた「奉仕を続けていれば天は何かを授けてくれる」。写真の看板は2代目治太郎さん作

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