前回は飲む薬が増えると薬の害(薬害)も増えるということをお話しました。今回は、なぜ高齢者になると薬の害が増えるのかということについて2回に分けてお話します。
私たちが生きていくために食事は必要なものだということはよくわかっています。同じように薬も病気を治すために必要なものだと皆さんはお考えでしょう。けれども私たちの体からすると、元々体に持っていたものではないので、薬は体に必要なものとは認識されず、むしろ“異物”として認識されます。つまり、体にとっては“毒”なのです。毒が体に入りこむと私たちの体は防衛機能が働き、毒から体を守ろうとします。とりわけ、毒を無毒に変える働きを担っているのが“肝臓”です。高齢者になると肝臓は十分な働きができなくなってきており、「お酒に弱くなったな」という経験がある方もいらっしゃるでしょう。肝臓での十分な働きができなくなると、薬を分解する時間がかかったり、場合によっては分解することができなくなったりします。
もう1つ大切な役割を担っているのが“腎臓”です。「肝心要」とか「肝腎要」とも言いますね。本来は「肝腎要」と腎が用いられていましたが、昭和21年の「当用漢字表」制定で「腎」が使用できず、「心」に書き変えられました。現在では双方用いられています。腎臓は老廃物をおしっことして体の外に排泄します。腎臓も肝臓と同じように高齢者になると十分な働きができなくなり、薬を体の外に排泄するのに時間がかかってしまい、体に溜まってしまうのです。
肝臓も腎臓も生まれてからずっと働いています。例えば、皆さんが長い距離を全速力で走ると疲れて休みたくなりますね。けれども肝臓も腎臓も疲れたからといって休むことはできません。疲れないようにゆっくりと働くことで役割を果たしているのです。ですから高齢になるとその役割もだんだんに弱ってきたと感じるのです。
岩手医科大学薬学部
地域医療薬学分野
松浦誠
■取材協力