【わらべ歌】宮古に残る”クセスゴ”伝承

【わらべ歌】宮古に残る”クセスゴ”伝承

風のうわさ
風のうわさ イワテ奇談漂流

高橋政彦さん

 その昔、子どもがいる家庭には歌がたくさんあった。テレビ番組の中の子ども向けの歌ではなく、同居するおばあちゃんやお母さんによって、孫や子に伝えられた《わらべ歌》の類いである。子々孫々伝えられる《わらべ歌》は「茶つぼ」や「おちゃらかほい」など、手を使って遊ぶ〈手遊び歌〉や〈子守歌〉が中心になるのだろうが、《わらべ歌》には他にも〈絵描き歌〉〈数え歌〉〈手鞠歌〉があるし、「かごめかごめ」「通りゃんせ」「はないちもんめ」など、友だちと全身を使って楽しむ〈遊び歌〉などがある。多種多様。それだけ大切なコミュニケーションツールなのだ。

 私の幼い頃の記憶にもこんな〈手遊び歌〉が残っている。

♪かれっこいぇーで、とんむらげすていぇーで、しょうゆっこつけで、だれさかせべ、あーんめんめんめー

(鰈っコ焼いて、引っ繰り返して焼いて、醤油っコ浸けて、誰に食わせよう、あーうまいうまい)

 冷たくなった子どもの両手を平べったい魚に見立て、ストーブ(もっと昔は火鉢や囲炉裏)の火で炙る仕草をしながら暖を取らせるための〈手遊び歌〉である。

 まさに海の町・宮古だからかと疑いもせず生きて来たのだが、先日ふと衝撃的なことを知った。

♪かれっこやいて、とっくらきゃしてやいて、しょうゆつけて、たべたらうまかろ

 ほぼ同じ内容のこの歌が、横浜や千葉などの〈手遊び歌〉と紹介されていた。丁寧に調べていくと全国に広く分布しているものなのかもしれない。全国どこでも鰈はいるから当然かもしれないが、ネットで動画を確かめたら、メロディーは私が慣れ親しんだものとは違っていたし、北国ではない地方のものは、両手を暖めるという主旨の動きはなく、寝かした赤ちゃんを撫でるなどの動きになっていた。同種のものでも所変われば違いは生まれる。変化・成長しながら伝承される証明になるだろう。

 さて、私の記憶に強烈に残る故郷の《わらべ歌》は他にもある。

♪ででっぽっぽう、ででっぽっぽう、ででーがふんどそぉ、いんがけーだ

「ででっぽっぽう」が山鳩の鳴き声であることはわかるが、以下を読んだだけでは読解難易度はかなり高いはずだ。だいぶ前、私もこれを解き明かしたいと思い、母親に聞いてみたのだが、お袋もその祖母から聞いた歌なので正確なことはわからないという。でも、「たぶんな」と前置きして話してくれたのが、「『ででーがふんどそぉ』は『親父のふんどしを』で、『いんがけーだ』は『犬が咥えた』だと思う」だった。思わず笑ってしまったが、確かに父のことを「てて」ということは知っていた(子どもが言う「とと」も父の)から、それが「でで」と訛ることもあるだろう。それにしても「いんがけーだ」が「犬が咥えた」と訳せるのもすごい。それよりすごすぎるのが「犬が父さんのふんどしに悪戯していますよと山鳩が鳴いて教えている」という意味不明のシチュエーションである。  

 子どもをあやす《わらべ歌》に真っ当な意味など求めてはいけないのだろうね。

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