盛岡市と矢巾町の境に、クヌギの木でおおわれた山がある。秋になると全山が黄から赤褐色に紅葉する赤林山だ。赤林郷土史(伊藤竜太郎著)によれば、この地域一帯が、遠くからも真っ赤に望見されることから、「赤林村」という地名になったとされる。決して派手な紅葉ではないけれど、村名と山名に選ばれたシックな赤色が山肌をくるむ。
江戸時代、赤林山は南部藩の留山(とめやま)であった。厳しい林政を布き、赤林村の山林原野すべてを藩の直轄管理下においたという。「勝手に切ってはならぬ」と入山・伐採・狩猟を禁止し、掟破りを厳しく処罰した。クヌギの用材では槍の柄を造り、焼いて良質の木炭を製造、剥いた樹皮は染めや薬に用いた。赤林山は南部藩のお宝だったのである。
クヌギはブナ科の落葉高木で、果実は、もじゃもじゃ毬(いが)帽子の平たいオカメドングリだ。子どもたちに人気の雑木で、暗くなるとクワガタやカブトムシが樹液を吸いにやってくる。全国各地に広く分布するため、「国の木(クニギ)」からクヌギになり、櫟や椚のほか、橡・椡・栩など、漢字の表記が多い。
赤林山登山コースは、矢巾温泉手前の駐車場より片道3.2㎞、約2時間で山頂に着く。小沢を越え、長い痩せ尾根を快適に進んで南昌第二トンネル上部を横断。その後は、次第に傾斜を増すが、焦らずに一歩ずつ高度をかせぐこと。6m高い西赤林山〜ブナ広場まで足をのばした場合は、さらに往復30分かかる。復路の下りは要注意。ブレーキの連続で足の爪を痛める。
周回コースはちょっと手ごわい。赤林山から西赤林、ブナ広場に下って、毒ヶ森からノロキ山・薬師岳経由で848mの南昌山へ。お好み次第で前倉山コースを下るもよし、林道を下るもよし、矢巾温泉にもどって7〜8時間かかる。