【第71回 仙磐山(せんばんやま) 1016m】山岳信仰と金属と

【第71回 仙磐山(せんばんやま) 1016m】山岳信仰と金属と

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

 釜石市甲子(かっし)町の日向ダムの北に聳える「仙磐山」は、「千晩ヶ嶽」とも書く山岳信仰の霊山だった。小川踏切から約2kmの中小川地区の小高い辻にある千晩神社は、「千晩ヶ嶽」を遥拝する社殿だったという。奈良の春日大社が祀るタケミカヅチノミコト(武甕槌命)は、白鹿に乗ってやって来た神様で、お使いの白鹿ともに再生と豊饒の象徴であった。

 遠野物語32話は、猟師が千日千晩山にこもり、大鹿を射止める話だ。手負いの鹿は片羽山まで逃げたけれど足が折れ、ついに捕獲される。笛吹峠の死助大権現(しすけだいごんげん)は、どうやらこの大鹿のことを指すらしい。傷ついた犬は死して、東の853m峰に埋葬され「犬頭山」となった。

 千晩神社の辻から廃校になった小川小学校方向へ下ると、重厚なレンガ積みの第二アーチ橋梁に出くわす。今は、関根沢の水が小川川にそそぐ暗渠(あんきょ)だが、鉄鉱床に沸いた明治13年に、大橋の採掘場から釜石港までの支線として小川の製炭所へ鉄道を通した所だ。学校の横まで進んだところで、仙磐山が初めて姿を現した。犬頭の走りに金銀が発見され、小浜で砂金掘りをしたとなれば、この頃、金銀銅鉄の金属にちなむ文言が勢いづいたとしても、何ら不思議はない。

 仙磐山は、日向ダムより北へ900m下ったヘアピンカーブに駐車する。壊れた林道を北進し、458点から標高700m点まで真っすぐに上がれば、犬頭山との鞍部に着く。で、どっちに登るかといえば、先に西の仙磐山でしょう。巨岩は千晩神社の奥ノ院で、祠や宝剣・権現様を祀っている。西方に片羽山の雄岳と雌岳、岩倉山が聳えていた。鞍部へもどり、東の774点より四等三角点のある犬頭山へ、ワン往復する。

 金属を連想する「仙磐山」、信仰の神秘性なら「千晩ヶ嶽」が似あう。二つともガッテン至極。

日向ダムから《おせんば様》信仰の仙磐山を望む。犬頭山は右の稜線をワン往復ワン時間だ

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