【第72回 女神山(めがみやま) 955.8m】ブナと動物の 胃袋事情

【第72回 女神山(めがみやま) 955.8m】ブナと動物の 胃袋事情

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

「今年(2025)はブナもドングリも不作です」。先だって、網張ビジターセンターに勤める坂内さんが心配そうにつぶやいた。そろそろ落葉の時を迎えるはずだが、どの樹を見上げても実は疎らで、豊作だった去年とは大違いである。

 西和賀町沢内の西端にある女神山は、ブナと滝の森である。芽吹きの春は明るい萌黄色。葉がまっキキの黄に染まる女神の秋こそ、動物たちが待ちにまった食事の季節だ。鈴なりの実が爆ぜて風のそよぎで落下すると、林全体が動物の食料貯蔵庫に一変し、早いもの順の食べ放題になる。ある時、ブナの一粒を噛んでみた。するとクルミのような香味が鼻腔に抜けて、これがうまい。

 さあ、女神の山に登ろう。「清水ヶ野」の下前から県道12号を5.6㎞走行し、分岐で右の砂利道を4.6㎞進むと、行き止まりが駐車場だ。ほどなく眼下に「白糸の滝」が見えるので下ってみよう。

西和賀町沢内 女神山 ブナ見平 降る滝 岩清水 女神霊泉 姫滝 爺滝 姥滝 白糸の滝 不動の滝

黒い巨岩いっぱいに白い糸を垂らしたように流水が広がり、あたかも竪琴を奏でるようにサワサワと降る。それは優雅な女神の姿であった。

 再び元の道に上がり、沢を越えれば右手に登山口の尾根がある。急登が30分続き、やがて展望のあるなだらかなブナロードとなって、少し登りがきつくなったころ分岐に着く。これより10分で三等三角点の待つ山頂である。真昼岳や和賀岳など名だたる奥羽の山々がはるか北へ稜線をのばし、西に黄金色の千畑平野、東の西和賀町沢内を二分していた。

 復路は県境のブナ見平を経由してブナ林を下る。さらに30分下れば女神霊泉、岩清水に着く。周辺には、姫滝、爺滝、ひやげ滝、不動の滝などあるけれど、特に三滝と呼ばれる「落差50mの降る滝、姥滝(うばたき)、白糸の滝」は、いつ訪れても麗しい。

 ところでブナの不作に見舞われた動物の胃袋はどうなる?

西和賀町沢内 女神山
子規古道より望む女神山。湯田の町はなお遠いと詠んだ子規の歌碑「蜩や夕日の里は見えながら」

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