初夏は残雪期登山の旬である。クマもヤマネも冬眠から覚めて、香(かぐわ)しい森の息吹(いぶき)を味わっていよう。
北上山地の中央に、アオモリトドマツが自生するピークがある。岩泉町と宮古市川井の境にそびえる「青松葉山」は、立臼牧場への除雪を待って登る深山である。雪と冷気に閉ざされていた青松葉山で、ブナの幹の周りの雪が溶ける根開きが始まった。
「青松葉」は初夏の季語である。その色を想像すると、ミストシャワーに洗浄されたように脳内がスッキリするから不思議である。青色がもたらす癒しの効果は絶大なのだ。
もともとは青と緑を区別せず、「あお」と言ったが、針葉樹や常緑樹が365日ずっと単一の「青」であり続けることはない。漢字では、青・藍・緑・蒼・碧・紺と、色調の違いを表現している。冬は暗緑色、若草色の新芽、鮮やかな夏の青みどり、松ボックリは濃紫色だし、オオシラビソは絶妙なさじ加減で、青と緑の階調を変えていく。
県道171号(大川松草線)が除雪され、ゲートが開くときが青松葉山を登るチャンスである。車が松草峠まで上がり、ネマガリタケが残雪に押しつぶされるほんのわずか、3週間ぐらいが適期であろう。見晴らしの良い穏やかな尾根歩きを堪能できる。
峠に駐車し、スノーシューで放牧地を北東へ登れば、広い主稜線に上がる。山頂は、真白き早池峰山の眺望が良い。さらに15分東進し、西を遠望する雪原に向う。ここで岩手山や八幡平の山並みが一気に広がる。
友人の麻路さんは「藍」に魅せられた人だ。藻を熟成させる大ペールを家に置き、染液を根気よく育てている。かくして白布は、麻路ブルーに染めあがる。
真っ青な空、オオシラビソの郡青(ぐんじょう)、緑風…と、青尽くしの青松葉山で、親友と青藍(せいらん)談義をしたいなぁ~。