【海のアルプス 0m】手掘トンネル 何のため?

【海のアルプス 0m】手掘トンネル 何のため?

ほくほくトレッキング
阿部陽子のほくほくトレッキング
(公社)日本山岳会岩手支部 支部長 阿部陽子さん

「いつ 誰が 何のために」ここに掘ったのか。好奇心にいきなり火が点いた。黒崎半島の海抜0mラインに掘られたトンネルは、「海のアルプス」と呼ばれるトレイル最大の異界である。

 田野畑村北山崎の展望地は、高さ170mの断崖上にある。シロバナシャクナゲ園地から、急傾斜地に設置したスリリングな階段を波ぎわまで下り、崖を回りこんで沢を越え、さらに階段を登りつめて対岸の絶壁に上がる。ここから先も、きついアップダウンをくり返し、北山浜→机浜の番屋→白池海岸→真木沢浜から鵜ノ巣断崖までの約18kmを南下する。直立した海岸段丘の高度感に眼がくらみ、うっかり転んでしまえば海の藻屑(もくず)となりそうだ。

 ハイライトは手掘トンネルである。荒波のリズムを見計らって巨岩を巻くと、そこは映画「猿の惑星」のような空間だった。岩礁にポツンと穴ひとつ、ハンマー痕も生々しい掘りっぱなしのトンネルである。唯一、出口の微光を頼りに通過するが、何が飛びだすやら不安と期待でわくわくだ。

 二つ目のトンネルは200m、ライトを消すと漆黒の闇になる。ここであるのは意識のみ。音も重量も、過去や未来の時間軸さえも感じない、(ブラックホールの感覚って、こんな?)そもそも誰が、何の目的で、いつ掘ったのか、謎は深まるばかりであった。

 三陸海岸が国立公園に指定されたのは、昭和30年。その後、地元の建設会社によって自然歩道が整備された。11年の歳月を費やして数カ所のトンネルを貫通させたが、資金は尽き、手掘りのままで終了―これが真相である(現在は、一部が地盤沈下により通行困難)。

 八戸市の蕪島(かぶしま)からずっと歩き継いできたが、全ては、海面すれすれの異界に遭遇するためだったと思う。次なる謎解きを求め、私の潮風トレイルは続く。

断崖絶壁にある手掘りトンネルは田野畑ルートの驚きの空間である。月の満ち欠け・干潮満潮を知って探査したい。心が澄んでいく
断崖絶壁にある手掘りトンネルは田野畑ルートの驚きの空間である。月の満ち欠け・干潮満潮を知って探査したい。心が澄んでいく

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